
保険会社が役員報酬の全額を基礎収入と認めてくれない。
社長・役員の休業損害、逸失利益の考え方を知りたい。
この記事は、このような社長・会社役員の方のために書きました。
こんにちは!静岡の弁護士の山形です。
今回は、会社の社長や役員の方の休業損害や逸失利益について解説しています。
裁判では、役員報酬については、必ず全額が基礎収入と認められるわけではありません。
そこで、役員報酬について基礎収入として認められるためのポイント等についても解説していますので、ぜひ参考にしてみてください。
本記事を執筆した弁護士
目次
この記事の結論
- Q1. 会社役員が事故に遭った場合、役員報酬全額が休業損害・逸失利益の基礎収入になるのか?
- A1. ならないケースが多い。裁判実務では、役員報酬は「①労務対価部分」(実際に役員が働いたことの対価)と「②利益配当部分」(役員としての地位にいることで受け取れる部分、若い親族取締役への生活保障、法人税軽減のための加算部分など)に分けて考え、基礎収入となるのは①労務対価部分のみとされる(最判昭和43年8月2日の企業主の逸失利益に関する判例の考え方を役員にも援用)。そのため、交渉や裁判では、役員報酬のうちどの程度が労務対価部分として認められるかが最大の争点となる。
- Q2. 労務対価部分はどのように判断されるのか?
- A2. 裁判では以下の事情が総合的に考慮される。 ①会社の規模(大企業のサラリーマン役員は全額労務対価となる傾向、小規模会社のオーナー役員は一部のみとなる傾向)、 ②会社の利益状況(業績が良好なら労務対価部分が広く認められる)、 ③役員の地位・職務内容(従業員と変わらない仕事内容なら労務対価部分が広く認定される)、 ④役員報酬の額(賃金センサスの額と比較される)、 ⑤他の役員・従業員の職務内容と報酬の差、 ⑥事故後の役員報酬の減額の有無(減額されていれば減額分が労務対価と評価されやすい)。
- Q3. 役員報酬が事故後に減額されなかった場合、休業損害は請求できないのか?
- A3. 減額されなくても休業損害が認められる場合がある。役員報酬は同族会社等では代表者の意向で稼働状況と無関係に支払われ続けることがあり、裁判実務では「報酬が減額されていない=労務対価がない」とは直ちに判断されない。また、当該役員が十分稼働できなかったにもかかわらず会社が報酬を支払い続けた場合、会社が加害者に対して「反射損害」として損害賠償請求できる可能性もある。この場合、会社の売上減・外注費増・他の従業員の残業代増などが反射損害として認められることがある。
- Q4. 役員が死亡した場合の逸失利益はどう計算されるのか?
- A4. 死亡した場合は、利益配当部分も含めて役員報酬全体を基礎として逸失利益を算定すべきとした裁判例がある(東京地裁昭和61年5月27日判決)。死亡により役員の地位を失うため、利益配当部分も受け取れなくなるからである。被害者の遺族は、この裁判例を根拠として、役員報酬全体を基礎とした逸失利益を請求することが考えられる。
役員報酬の全額が基礎収入と認められるとは限らない理由
会社の社長を含む役員の方が事故にあった場合、休業損害や逸失利益で保険会社と揉めることが多くあります。これらの損害額を計算する前提となる基礎収入額の認定が問題となるからです。
基礎収入額の認定が問題となるのは、裁判例では、役員報酬の中には、①労務対価部分と②利益配当部分等があると考えられていて、基礎収入額となるのは、①労務対価部分に限られるからです。
この考え方の根拠は、最高裁昭和43年8月2日判決(民集22巻8号1525頁)にあります。同判決は、企業主の逸失利益に関して、企業主が身体を侵害されたため企業に従事できなくなったことによる財産上の損害額は、原則として、企業収益の中から被害者の労務その他企業に対する個人的寄与に基づいて得ていた収益部分の金額によって算定すべきと判示しました。これを役員の逸失利益・休業損害にも援用し、役員報酬のうち労務対価部分のみが基礎収入になるという実務が確立されています。
①労務対価部分というのは、その役員が実際に働いたことに対する報酬となるもののことです。
②利益配当部分などというのは、イメージとしては、実際に働いていないけど、創業者や役員という地位にいることでもらえる利益のことです。若い親族取締役が実際は働いていないけど生活保障の意味合いがある役員報酬や法人税の負担を軽減するための加算部分なども②利益配当部分などに含まれます。
そのため、交渉や裁判では、役員報酬のうち、どの程度が労務対価部分として認められるかが重要となってきます。
裁判での考え方
裁判では、以下で取り上げる事情を総合的に考慮して、労務対価部分の程度を判断しています。
要素1:会社の規模
大企業の役員の場合には、役員報酬の全てが労務対価部分と評価される場合が多いです。いわゆる「サラリーマン役員」と呼ばれるような、実質的には従業員と同様に働いている役員のケースでは、役員報酬全額が労務対価部分として認められる傾向があります。
一方、会社が小規模で事故に遭った役員が会社のオーナーである場合やオーナーと親族であるような場合には、役員報酬の全てが労務対価部分とは評価されない可能性が出てきます。ただし、従業員が長年勤務して役員になったようなケースでは、オーナー等と異なり、役員報酬は低額であることが多く、労務対価部分が多く認められる可能性があります。
要素2:会社の利益状況
基本的には、同業種・同程度の規模の会社の同程度の地位の役員の報酬と事故に遭った役員の報酬を比べることになるのですが、業績等によって役員報酬額に差が生じることは当然あります。そのため、業績が良い場合には、当該役員の報酬が高くても、労務対価部分が広く認められる可能性があります。
また、事故後の当該役員の稼働状況との関係で会社の利益がどうなったか?という点も考慮されます。つまり、当該役員の稼働状況と会社の利益が連動しているような場合には、労務対価部分が広く認められやすくなります。
例えば、札幌地判平成21年2月16日は、死亡した57歳の会社代表取締役について、事故後に会社の売上が大きく減少した(事故日を含む年が7,696万円→翌年が4,486万円)ことを考慮して、役員報酬年額840万円全額を労務対価部分と認定しています。
要素3:役員の地位・職務内容
当該役員が名目的な取締役で実際には働いていないというようなケースでは、役員報酬に労務対価部分は無い、ということになります。
名目的な取締役ではない場合には、実際の職務内容が問題となります。当該役員の職務内容が他の従業員と変わらず、報酬の額も他の従業員の給料とあまり変わらないような場合には、労務対価部分が広く認められる可能性があります。また、小規模会社で、当該役員が実質的には一人で会社の利益をあげているような場合にも、労務対価部分が広く認められる可能性があります。
要素4:役員報酬の額
業績が低迷しているのに報酬額が急に増加している場合には、利益配当部分(労務対価部分ではない部分)が広く認められる可能性があります。
また、当該役員の年齢、経歴等からして、役員報酬が高額であるか否か判断される際に、賃金センサス(年齢別などの平均賃金額の統計です)の額が参考とされることもあります。なお、賃金センサスの額を参考とする裁判例では、賃金センサスの額を少なくとも労務対価部分とみるべき部分の判断の参考としたうえで、賃金センサスの金額よりも高い額を労務対価部分と認定しているケースが多くあります。
要素5:他の役員・従業員の職務内容と報酬・給与の額
例えば、当該役員と他の役員や従業員の職務内容がほとんど同じなのに、当該役員の役員報酬が他の役員の報酬や従業員の給与よりも高額である場合には、その差額の相当の部分が労務対価性がないと判断されやすくなります。
逆に、当該役員が他の役員・従業員の2倍、3倍といった高い水準の労務を提供していることが立証できれば、他の役員・従業員の報酬・給与と比較して高額であっても、全額が労務対価部分と認められる可能性があります。
要素6:事故後の役員報酬の減額等
事故後に稼働できなかったことを理由に役員報酬が減額されていれば、相当部分が労務対価部分と評価される可能性がありますが、同族会社等では、代表者の意向で実際の稼働状況に関係なく役員報酬が減額されることもあるので、ケースバイケースということになります。
逆に事故後の減額が無かったとしても、必ずしも労務対価部分がないということにはなりません。同族会社等では、役員報酬の変更には株主総会の決議が必要など手続が煩雑であることや、法人税・社会保険料の関係で報酬額の変更がしにくいという実務上の事情もあり、減額していないことが「労務対価がないことの証拠」にはならないからです。
なお、当該役員が十分稼働できなかったのに、会社は報酬を支払ったということで、会社が事故の加害者に対して、いわゆる反射損害として、損害賠償請求することも考えられます。
要素7:同種企業の平均的な役員報酬額
会社の税金については、役員報酬の額が、その役員の職務内容、同種規模法人の役員報酬等に照らして不相当に高額な場合には、不相当と認められる金額は損金に算入されないという考え方があります(法人税法34条2項)。
しかし、これは、公平な課税を実現するために職務対価を算定するものに過ぎません。そのため、実際の裁判例では、同種同規模の会社の役員報酬の金額に関する資料が証拠として出されることは稀ですし、提出されたとしても、労務対価部分の認定について、それほど影響力は無いと考えられます。
立証で最も重要な要素は?
以上を踏まえると、当該役員の職務内容に照らして報酬金額が相当といえるか否かという考え方がベースにあって、職務内容の判断をする際に、会社の規模などの要素も検討されているようです。
そのため、訴訟では、当該役員の職務内容が重要であること、代替性がないことなどを主張するために、職務内容を具体的に主張することが大切です。
裁判官に職務内容を理解してもらうためには、以下のような資料を証拠として提出することが考えられます。
- 当該役員の陳述書(事故前の1日の業務内容、月間の出張・営業活動の件数、担当していた取引先、専門技能・知識の内容など具体的に記述)
- 会社の組織図・業務分掌表(他の役員・従業員と比較して、当該役員がどの業務を担当していたかを示す)
- 事故前の予定表・業務日誌(実際の稼働状況を示す客観的証拠)
- 取引先からの証明書(当該役員の業務遂行能力や、事故後の業務支障による影響を証明する)
- 事故前後の会社決算書(事故による会社の売上・利益への影響を示す)
特に、陳述書で当該役員の業務の重要性・代替不可能性を具体的に記述することが、労務対価部分を広く認めてもらうための最も重要なポイントです。
役員が死亡した場合の逸失利益
役員が亡くなった場合については、利益配当部分も含めて役員報酬全体を基礎として逸失利益を算定すべきとした裁判例があります(東京地裁昭和61年5月27日判決)。死亡の場合は、役員の地位を失い、利益配当部分も受け取れなくなるからです。
そのため、被害者の遺族としては、上記裁判例を根拠とするなどして、役員報酬全体を基礎とした逸失利益を請求することをオススメします。
なお、前述の札幌地判平成21年2月16日も、死亡した代表取締役について役員報酬年額840万円全額を労務対価部分と認定しており、死亡事案では労務対価部分が広く認められる傾向があります。
反射損害:会社が加害者に請求できる場合
会社役員が事故に遭って十分稼働できなかった場合、会社が加害者に対して損害賠償請求(反射損害)できることがあります。具体的には、以下のようなケースです。
- 会社が休業している役員に対して役員報酬を減額することなく全額支給していた場合(その報酬分について会社が反射損害を主張)
- 役員が休業したために、会社の営業利益が減少した場合
- 役員の代わりに代替労働力を雇ったり、業務を外注したりして費用がかかった場合
ただし、反射損害が認められるのは、当該役員の行う業務が会社にとって極めて重要で代替性がなく、事故と会社の損害との間に相当因果関係が認められるケースに限られます。会社が反射損害を請求する場合、会社自身が原告(または共同原告)となって訴訟を提起することになり、役員個人の損害賠償請求とは別の手続が必要です。
会社役員の休業損害・逸失利益は専門家への相談を
会社役員の休業損害・逸失利益は、役員報酬の労務対価部分・利益配当部分の切り分けという極めて専門的な論点が含まれ、主張・立証の組み立てによって基礎収入の認定額が数百万円〜数千万円単位で変わり得ます。保険会社は、役員報酬の一部のみを労務対価と主張して基礎収入を低く見積もってくることが多いため、適切な反論をしなければ大きな損失を被る可能性があります。
当事務所では、会社役員の交通事故に関するご相談を多数お受けしており、過去の裁判例を踏まえた具体的な主張・立証戦略をご提案できます。事故に遭われた社長・役員の方、またはそのご家族・ご遺族の方は、お早めに弁護士にご相談ください。弁護士費用特約を使えるケースでは、実質無料で対応可能です。
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