交通事故にあってから仕事ができなかったのに収入が増えてしまったので、保険会社から休業損害の支払を拒否されている。
個人事業主の減収がない場合でも休業損害が認められた判例を知りたい。

この記事は、このような方のために書きました。

こんにちは。静岡の弁護士の山形です。

今回は、個人事業主の減収がない場合の休業損害に関する裁判例について紹介しています。
個人事業主の場合、自分の努力や家族の協力の結果、事故後の収入が減少しないこともあるかと思います。
個人事業主の方は、是非参考にしてみてください。

静岡城南法律事務所

弁護士 山形祐生(やまがたゆうき)

静岡県弁護士会所属 登録番号:44537

静岡県交通事故相談所の顧問弁護士(静岡県知事の委嘱による)。
日本交通法学会に所属し、交通事故に関する最新の裁判例等の研究をしている。静岡県外からの相談・依頼も多く、一人で年間120件以上の交通事故案件を手掛けている。慰謝料、後遺障害、過失割合に関する交渉・裁判を得意とする。

目次

休業損害が肯定された裁判例

個人事業主について事故後の減収がなかった場合でも、休業損害が肯定された裁判例について紹介していきます。

判例①(土木建築業)

大阪地裁・平成30年4月6日判決

 原告は,本件事故後の1箇月間については,首を固定されていたこともあり,現場に出たり営業の仕事をしたりすることがほとんどできず,専ら事務仕事を行うにとどまっていたこと,他方で,本件事故に遭った平成26年度の原告の所得額は,それ以前と比べて増加していること,その他原告の症状の内容,程度,治療経過,通院状況等諸般の事情に鑑みると,原告の休業損害の額は,基礎収入を509万3112円とし,原告が主張する2箇月の休業期間につき,5割程度の就労制限があったものとして,42万4426円(=509万3112円÷12箇月×2箇月×0.5)と認めるのが相当である。

原告は、土木建築業を営み、大工仕事、現場監督などの仕事をしていました。
原告の主張は、「本件事故後2箇月程度は全くできなかった。なお,現場仕事は,外注して完成させたが,現場指示等ができないため,支出が増加するなどの損害が発生した。原告の基礎収入は,過去5年間の平均所得に固定経費を加えたものとして算定し,年収金509万3112円とする。」というもので、2ヶ月分(509万3112円÷12×2≒84万8852円)の休業損害を請求していました。

しかし、事故が発生した年度(平成26年度)は前年度よりも売上・所得が増加していました。
そのため、被告は、原告の休業損害の発生を争っていました。

裁判所は、以下の事情などを考慮して休業損害を認めました。
・事故発生年度の所得がそれ以前と比べて増加している(否定する方向の事情)
・原告の症状の内容、程度、治療経過、通院状況等

なお、原告は、現場仕事は外注して支出が増加したとの主張をしていましたが、具体的な増加額は証拠上明らかとなっていません。

症状の内容についてですが、原告は後遺障害14級9号の主張をしていましたが、裁判所は後遺障害については否定しています。
原告が事故後1ヶ月間、首にカラーを固定していたという事情が重視されているように思われます。

裁判所が認定した基礎収入額は、事故前5年間の所得に固定経費を加えた平均額です。

また、休業期間について、原告が主張する2ヶ月の休業期間について、5割の就労制限を認定されました。
つまり、1ヶ月の休業損害を認めたわけですが、やはり原告が本件事故後1ヶ月間首にカラーを固定していたという事情が重視されたものと思われます。

判例②(不動産鑑定士)

東京地裁・平成18年10月30日判決

 平成13年12月11日に遭った本件事故による受傷の結果,首が痛くて仕事がつらく,Aクリニックの医師から入院を勧められたものの,入院すると事務所の仕事が止まって収入が途絶え,他の不動産鑑定士に仕事を奪われると不安を覚え,定期的に発注される裁判所の仕事を止めてもらう・・・とともに国税局の仕事を中断して,本件事故後も通院をしながら,仕事量を増やすことができないまま本件事故前に受注した仕事をしていたこと,本件意見書には,休業期間について,「頚椎捻挫における休業は出来るだけ避けるべきというのが現在の医療上の考え方である。安静にすることでのデメリットの方が大きいことがその理由である。しかし,・・・長期にわたりその休業が必要とは到底考えられない。」との記載があることが認められる。
 以上の点に,前示のとおり原告の後遺障害が局部に神経症状を残すもの(後遺障害等級14級10号)であることをも併せ考慮すると,原告は,本件事故の結果,本件事故の日から症状固定日(平成14年6月30日)までの202日間にわたり,本件事故に遭わなかった場合に比して労働能力を平均2割喪失したというべき・・・である。

原告は不動産鑑定士でした。事故による509日間の休業損害を請求していました。
症状固定後の通院期間についても休業損害の発生を主張していました。

もっとも、原告は、事故後も休業しないで仕事を続けており、事故後の方がそれ以前よりも売上・所得が増加していましたので、被告は、休業損害の発生を争いました。

裁判所は、原告に後遺障害(14級9号)を認定したうえで、症状固定日までの202日間にわたり平均2割の労働能力喪失を認めました。
基礎収入額については、事故前年の所得をベースに認定しています。

休業損害の発生については、以下のような事情が考慮されています。
・定期的に発注される裁判所の仕事を止めてもらった(新件は担当しなくなった。)。
・国税局の仕事を中断した。

・通院をしながら、仕事量を増やすことができないまま本件事故前に受注した仕事をしていた。

個人事業主の場合、事故前に受注した仕事の売上が事故後に発生し、事故後の売上が下がらない・増加するということもあるかと思います。
そのようなケースであっても、事故後、仕事を減らしたことで、その後の収入が減ってしまう場合がありますので、休業損害の主張をすることが考えられます。

判例③(学習塾経営)

神戸地裁・平成23年3月23日判決(自保ジャーナル・第1847号)

 原告の学習塾の前記営業収入(差引金額)については、本件事故後若干の減少が見られるものの、本件事故前後において、さして遜色がないものということができる。ただし、本件事故により原告の学習塾の経営等に支障が生じたもののその営業を中断することなく、営業収入がさほど変化しなかったのは、前記認定のとおり、原告が一定の努力をしたことや原告の妻や娘の寄与(・・・)が一部貢献していることなどが認められる。
 原告の本件事故前の職務内容・稼働状況から事業の中心的立場にあることから、その個人的寄与が大きいこと等に照らすと、原告の学習塾の平成17年の収入の大半は原告の働きに係っており、少なくともその85%は原告の寄与に係るものと一応認められる。
 そうすると、平成17年の原告の所得(営業収入)が743万2,238円であり、前記のとおり、その全てが原告の寄与にかかる収入とするのは相当でないので、このうち85%の631万7,402円(円未満切り捨て。以下同じ。)をもって原告の寄与にかかる収入と認め、原告の休業損害を算定することとする(前記のとおり、学習塾の営業自体は継続している。)。
 そして、前記認定の原告の症状や通院状況等に照らし、原告が休業を余儀なくされたのは、原告の通院日のうち、平成18年8月20日から平成19年5月14日までの150日については50%と、以降平成20年4月30日までの199日については25%と認めるのが相当である。
 原告の休業損害は、次の計算式のとおり、215万9,166円となる。

原告は、妻や娘に手伝ってもらいながら学習塾を経営していました。
事故後、売上は大きく変動していなかったことから、被告は休業損害を争いました。

裁判所は、営業収入がさほど変化しなかった理由として、原告が一定の努力をしたことや原告の妻や娘の寄与が一部貢献していることを認定しました。
そのうえで、原告の所得のうち85%を原告の寄与による収入と認定し、原告の症状や通院状況を考慮して、いわゆる逓減法(一定の期間ごとに仕事に支障が生じた割合を認定する方法です。)により休業損害を認定しました。

今回の判例のように自営業者の場合、本人の努力や家族の協力などによって減収がないということがあります。
そのような場合には、努力した内容や家族の協力を具体的に主張・立証して、休業損害を請求しましょう。

休業損害が否定された裁判例

次に、個人事業主の事故後の減収がなかった場合に休業損害が否定された裁判例について紹介します。

判例④(放送作家)

東京地裁・平成26年3月26日判決

 原告は,テレビ番組の放送作家を業とする者であり,その業務の態様をみると,時間的自由度がそれなりに高く,通院先が自宅兼事業所に近接していることもあり,業務に支障を生じない形で通院することも可能であったものと考えられ,通院をしたことにより直ちに具体的な減収が生じる関係にあると認めることはできない。また,証拠(甲3の1,2,甲11)によれば,原告の所得額は,平成20年が413万0748円であったのに対し,本件事故が発生した平成21年が614万3620円,さらに,平成22年が913万8732円と増加しており,そのような中,仮に担当した番組本数が減少しているとの事実がある(甲21参照)としても,それが本件事故によりやむなく辞退したものである等の具体的な経緯を認めるに足りる証拠もない。
 そうすると,原告において,本件事故により休業損害が生じたと認めることはできない。

原告は、テレビ番組の放送作家でした。

被告は、原告の収入が増加していることから休業損害を争っていました。

裁判所は、原告の業務態様について時間的自由度が高く、通院先が自宅兼事務所の近くにあることなどから、業務に支障が生じない形で通院することも可能であったとして、通院による減収を否定しました。
そして、実際の収入が増加していることから、原告の休業損害を否定しました。
なお、原告は、後遺障害を主張していましたが、裁判所は認めませんでした。

判例⑤(工務店の現場業務・経営)

佐賀地裁・令和元年8月6日判決(自保ジャーナル・第2057号)

 休業損害は、事故のため休業を余儀なくされた結果、減収が生じた場合に認められる。しかし、本件事故後に減収が生じていないことは、原告が自認するところであるから、休業損害は認められない。
 原告は、減収が生じていないのは無理をして仕事をした結果であるから、減収がない場合も休業損害を認めるべきであると主張する。しかし、現に仕事をすることができたのであれば、休業を余儀なくされたとはいえないし、損害が発生したともいえない。給与所得者との公平も問題にするが、給与所得者も、減収がなければ休業損害は認められない。休業すれば賃金の支払を受けられないために無理をして出勤せざるを得なかったとしても同様である。

原告は、工務店の現場業務・経営をしており、減収が生じていないのは、痛みや耳鳴を我慢しつつ、能率の低下を補うために、長時間あるいは休日の作業をしていたためであると主張していました。

しかし、裁判所は、現に仕事をすることができたのであれば休業を余儀なくされたとはいえないとして、休業損害を認めませんでした。

もう少し細かくみると、裁判所は、自賠責が認定した耳鳴りの後遺障害(12級)について、事故との因果関係を否定しましたが、一方、背中の痛みや腰痛等の後遺障害(14級)については認めています。
そのうえで、労働能力喪失率5%、喪失期間10年間の逸失利益を認めています。

確かに、休業損害と逸失利益は別の損害なのですが、症状固定後の営業に関する損害(逸失利益)が認められるのに、症状固定までの営業に関する損害(休業損害)が認められないというのは原告に酷な気がします。

なお、この事件は控訴され、控訴審で和解が成立しています。

まとめ

いかがでしたか?
今回は、減収がない場合の休業損害が認められた裁判例と否定された裁判例について紹介しました。
個人事業主の方は是非参考にしてみてください。

静岡城南法律事務所

弁護士 山形祐生(やまがたゆうき)

静岡県弁護士会所属 登録番号:44537

静岡県交通事故相談所の顧問弁護士(静岡県知事の委嘱による)。
日本交通法学会に所属し、交通事故に関する最新の裁判例等の研究をしている。静岡県外からの相談・依頼も多く、一人で年間120件以上の交通事故案件を手掛けている。慰謝料、後遺障害、過失割合に関する交渉・裁判を得意とする。

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