並走状態から車線変更をされて横からぶつけられた。
後ろの死角から車線変更をされてぶつけられた。
保険会社が主張する過失割合に納得がいかない。
過失割合が10:0になるケースを知りたい。
ドラレコが無くて事故状況を証明できない。
この記事は、このようなことでお困りの方のために書きました。
本記事では、車線変更の事故における基本的過失割合について、解説しています。
また、10:0になる場合など、基本的過失割合とおりにならない場合についても解説しています。
保険会社が主張する基本的な過失割合に納得がいかないという方は、是非、参考にしてみてください。
目次
保険会社が主張する基本的過失割合とは
車線変更の事故の場合、過失割合についてよく問題となります。
保険会社から「今回の事故の場合、過去の裁判では○対○で決まっている」などと言われたことはないでしょうか。
保険会社がいう「過去の裁判では」というのは、通常、判例タイムズという本を参考にしていることが多いです。
判例タイムズというのは、過去の裁判例等を事故類型ごとに整理して、基本的な過失割合を定めたものです。
交渉や裁判では、判例タイムズに記載された基本的な過失割合をベースに話し合いが行われることが多いです。
しかし、これはあくまで基準、つまり目安にすぎません。
そのため、具体的ケースによっては、修正要素によって異なる割合になることがあります。
また、もっと言えば、そもそも事故状況が判例タイムズのケースとは違うということで、基本的過失割合が妥当しないということもよくあります。
具体的には、保険会社は車線変更事故の場合、次に説明する基本的過失割合というものを持ち出して被害者側にも30%の過失を主張してくることが多いです。
しかし、後で説明するとおり、並走状態から車線変更や加害者が後方の死角からぶつかってきた場合には、被害者の過失が無く、0:100になることもあります。
そこで、以下では、まずは、車線変更の事故の基本的過失割合と修正要素について解説したうえで、後半では、車線変更の事故で、基本的過失割合と異なる割合になった裁判例や当事務所の解決事例を紹介しますので、参考にしてみてください。
なお、高速道路上での車線変更の事故については、一般道路上での車線変更事故の場合と基本的過失割合や修正要素が異なりますので、以下の記事も合わせて参考にしてください。
車線変更の事故の基本的過失割合と修正要素(一般道・車vs車)
基本的過失割合
後方から直進する車Aと、その前方で車線変更をした車Bが衝突した事故の場合、基本的過失割合は、Aが30%、Bが70%となります。
車両はみだりにその進路を変更してはならず(道路交通法26条の2第1項)、また、車両は、進路を変更した場合にその変更した後の進路と同一の進路を後方から進行してくる車両等の速度又は方向を急に変更させることとなるおそれがあるときは、進路を変更してはならないとされている(同条2項)ことから、車線変更をする車Bの方が不利な割合となっています。
ただし、判例タイムズの解説にも記載されていますが、これは、双方の速度に差のあることが前提となります。
つまり、Aの速度がBよりも高速であるか、車線変更時にBが減速するか、またはAが加速中であるかのパターンが想定されています。
そのため、後で解説するとおり、上記パターンに当てはまらないケースでは、車線変更の事故であっても上記基本的過失割合とおりにならない場合があります。
修正要素
上記の基本的過失割合を前提に以下の様な事情がある場合には、基本的過失割合が修正されることになります。
修正要素 | 直進車Aの過失が修正される割合 |
---|---|
Aがゼブラゾーンを進行 | +10~20% |
Aが時速15km以上の速度違反 | +10% |
Aが時速30km以上の速度違反 | +20% |
Aのその他の著しい過失 | +10% |
Aのその他の重過失 | +20% |
進路変更禁止場所 | -20% |
Bのウインカーなし | -20% |
Aの初心者マーク等 | -10% |
Bのその他の著しい過失 | -10% |
Bの重過失 | -20% |
例えば、Aに時速15kmの速度違反がある場合、Aの過失が10%加算されるので、Aが40%、Bが60%となります。
以下、各修正要素について解説します。
ゼブラゾーン進行
ゼブラゾーンの立ち入りについて禁止条項や罰則はなく、単に車の走行を誘導するものに過ぎませんが、運転者の意識としてゼブラゾーンにみだりに進入すべきではないと考えているのが一般的であるため、ゼブラゾーンを進行した後続直進車Aについて10%~20%の過失が加算されます。
著しい過失と重過失
著しい過失の例としては、脇見運転等著しい前方不注視、著しいハンドル・ブレーキ操作不適切、携帯電話等を通話のためにしようしたり、画像を注視したりしながら運転すること、酒気帯び運転などが挙げられます。
これらの事情がある場合、その運転手の過失が10%加算されます。
重過失は、著しい過失よりも重たい過失がある場合です。例としては、酒酔い運転、居眠り運転、無免許運転、過労、病気及び薬物の影響その他の理由により正常な運転ができないおそれがある場合などが挙げられます。
これらの事情がある場合、その運転手の過失が20%加算されます。
進路変更禁止場所
車両は、車両の進路の変更の禁止を表示する道路標示によって区画されているときは、原則として、その道路標示を超えて進路を変更してはならないとされているため(道路交通法26条の2第3項)、このような進路変更禁止場所での進路変更については、後続直進車Aの過失が20%減算されます。
ウインカーなし
車線変更車Bがウインカーを出さすに車線変更をした場合、後続直進車Aの過失が20%減算されます。
車両の運転者は、車両の進路を変更する際には、あらかじめウインカーなどで合図を行い、その行為が終わるまで当該合図を継続しなければなりません(道路交通法第53条1項)。
また、進路変更の場合には、その3秒前から合図をすることとされています(道路交通法施行令第21条1項)。
そのため、ウインカーを出していたとしても3秒よりも短い場合にも修正がされる可能性があります。
初心者マーク等
後続直進車Aがいわゆる初心者マークやシルバーマーク等をつけた自動車である場合、Bの進路変更に際しての注意義務が加重されるため、Aの過失が10%減算されます。
並走状態からの車線変更の場合
先に説明しましたとおり、判例タイムズに記載されている車線変更の場合の基本的過失割合は、双方の速度に差のあることが前提となります。
そのため、例えば、AもBも同程度の速度で並走していたところ、Bが車線変更をしてきた場合は、Aの過失が0%、Bの過失が100%になる場合があります。
Aとしては死角である横からぶつけられたため、事故を回避することはできなかったというわけです。
なお、Aの方が速度が速く、Bに追いついて横並びとなったところでBが車線変更して衝突したというケースについては、次に解説します。
この事故類型に関する裁判例としては、以下のようなものがあります。
静岡地方裁判所・平成31年3月14日判決
本件は,原告が法定速度を遵守して原告車両を運転して片側2車線直線道路の第1車線を直進走行していたところ,第2車線をほぼ並走して直進走行していた被告の運転に係る被告車両が安全確認を怠ったまま第1車線への車線変更を開始し,既にほぼ真横にいた原告車両に一方的に衝突してきたのであり,車線変更開始から衝突(接触)まで僅か1.5秒にも満たなかったというのであるから,原告からすればおよそ結果回避可能性がなかった事故というべきであり,本件事故発生に対する過失割合は,原告0%,被告100%と認めるのが相当である。
この事例では、ドライブレコーダーの映像は無かったようですが、実況見分調書が証拠として提出されており、実況見分調書に記載された当事者双方の説明を元に上記のような事故態様が認定されました。
判決では、①双方車両の位置関係(ほぼ真横を並走していた)、車線変更から衝突までの時間(1.5秒と短い)という2つの事情が重視され、直進車の過失が否定されています。
位置関係だけでなく、車線変更から衝突までの時間も過失割合を決める際に重要な要素となりうるため注意が必要です。
直進車の方が速く、並走になってから車線変更の場合
次に解説するのは、元々、直進車Aが車線変更車Bの後方を走行していましたが、Aの方が速く、Bに追いついて並走状態となったところで、Bが車線変更をしてきた場合です。
Aが一定の速度で走行していて、Bが車線変更のタイミングを伺って減速している場合にこのような事故状況になることがあります。
当事務所へのご相談としては、特に多い事故類型です。
この場合も具体的な事故状況によっては、Aの過失が0%、Bの過失が100%になる場合があります。
例えば、AがBの真横に追いついた状況や追い越した後に車線変更を開始した場合などは、Aの過失が否定されることがあります。
一方で、AがBの後方にいる位置関係でBがウインカーを出していたり、車線変更を開始している場合は基本的過失割合に近くなる傾向にあります。
こちらの事故類型について当事務所の解決事例の一例としては以下のものがあります。
いずれも、直進車Aは車線変更車Bの後方を走行していましたが、Aの方が速く、Bに追いついて並走状態(もしくは並走に近い状態)となったところで、Bが車線変更をしてきたというケースです。
いずれのケースも交渉段階では、保険会社は基本的過失割合である30:70やそれに近い割合を主張していましたが、裁判では依頼者であるAの過失は0%で解決となりました。
後方から追い抜きながら車線変更してきた場合
次に解説するのは、Bが直進車Aの後方から追い抜きながら車線変更をしてきた場合です。
このような場合、通常Aは後方から車線変更してくる車を予期して回避するこはできませんので、基本的にはAの過失が0%、Bの過失が100%になることが多いかと思います。
ただ、当事務所への相談に来られるケースの多くは、ドライブレコーダーが無く、そもそも相手方が追い抜きながら車線変更をしたことを否定しているいうケースが多いです。
そのような場合であっても、事故後の車両の位置関係や双方車両の損傷状況などから、事故状況を証明できる場合があります。
参考裁判例としては、以下のものがあります。
大阪地裁・平成30年6月28日判決
本件事故は,第2車線を走行してきた被告車が,車線変更をするに際し,変更先車線の車両の有無等を注視して進行すべき注意義務を怠り,第1車線をほぼ並走していた原告車に気付かずに,漫然と進行した過失により,被告車の左前部を原告車の右側面前部に接触させたものであるから,もっぱら被告の過失に起因するものである。
これに対し,原告車は,自車線内を走行中に,進路変更をしてきた被告車に接触されたものであるところ,本件事故直前の両車の位置関係は,ほぼ並走状態であったと認められることから,原告において,被告車の進路変更を予見して接触を回避するのは不可能であったと認めるのが相当である。したがって,本件事故発生について原告に過失はない。
詳細は不明ですが、ドライブレコーダーなどの客観的な証拠は無かったようです。
しかし、裁判所は、「本件事故後,被告車が原告車の前で停止したことにつき原告及び被告の供述は一致するところ,原告車と被告車の接触(本件事故)があった後にそのような状態になったということは,本件事故時に,被告車が原告車を追い抜いた可能性が高いといえ,したがって,被告車の速度が原告車よりも早かったといい得る。また,原告車及び被告車の損傷箇所は,原告車の右前タイヤ付近と被告車の左前ドア付近にあることからすれば,原告車と被告車は,ほぼ並走していた状態のときに接触したといえる。」として、被告車が追い抜きながら並走状態で車線変更をしたという事故状況を認定しています。
この事故類型に関する当事務所での解決事例の一例としては以下のものがあります。
詳細は、以下のページをご参考にいただきたいのですが、被害者の方の車についた傷の入力方向が後方から前方に向かって残されていたこと等から、事故状況の証明に成功しました。
左折・右折時に車線を越えてきた場合
次に解説するのは、2車線以上の左折、右折用車線がある交差点で、一方が車線を越えてはみ出してきた場合です。
この場合もAとBの速度が同程度でBが並走状態からAの車線にはみ出してきた場合やBが後方から追い抜きながら車線をはみ出してきた場合には、Aの過失が0%、Bの過失が100%になることあります。
当事務所の解決事例の一例としては以下のものがあります。
車線変更の事故の基本的過失割合と修正要素(一般道・車vsバイク)
次に解説するのは車とバイクの車線変更による事故に関するものです。
車線変更をしたのが車かバイクかによって基本的過失割合が変わってきます。
車が車線変更した場合の基本的過失割合
後方から直進するバイクAと、その前方で車線変更をした車Bが衝突した事故の場合、基本的過失割合は、バイクAが20%、車Bが80%となります。
ただし、車同士の事故の場合と同様に、これは双方の速度に差のあることが前提となります。
つまり、Aの速度がBよりも高速であるか、車線変更時にBが減速するか、またはAが加速中であるかのパターンが想定されています。
そのため、車同士の事故の各事例で解説しましたとおり、上記パターンに当てはまらないケースでは、車線変更の事故であっても上記基本的過失割合とおりにならない場合があります。
修正要素
修正要素 | 直進バイクAの過失が修正される割合 |
---|---|
進路変更禁止場所 | -20% |
Bのウインカーなし | -20% |
Bの著しい過失 | -5% |
Bの重過失 | -10% |
Aの時速15km以上の速度違反 | +5% |
Aの時速30km以上の速度違反 | +15% |
Aのその他の著しい過失 | +5% |
Aのその他の重過失 | +10% |
著しい過失と重過失
著しい過失の例としては、脇見運転等著しい前方不注視、著しいハンドル・ブレーキ操作不適切、携帯電話等を通話のためにしようしたり、画像を注視したりしながら運転すること、酒気帯び運転などが挙げられます。
これらの事情がある場合、その運転手の過失が5%加算されます。
重過失は、著しい過失よりも重たい過失がある場合です。例としては、酒酔い運転、居眠り運転、無免許運転、過労、病気及び薬物の影響その他の理由により正常な運転ができないおそれがある場合などが挙げられます。
これらの事情がある場合、その運転手の過失が10%加算されます。
進路変更禁止場所
車両は、車両の進路の変更の禁止を表示する道路標示によって区画されているときは、原則として、その道路標示を超えて進路を変更してはならないとされているため(道路交通法26条の2第3項)、このような進路変更禁止場所での進路変更については、後続直進車Aの過失が20%減算されます。
ウインカーなし
車線変更するバイクBがウインカーを出さすに車線変更をした場合、後続直進車Aの過失が20%減算されます。
バイクが車線変更した場合の基本的過失割合
後方から直進する車Bと、その前方で車線変更をしたバイクAが衝突した事故の場合、基本的過失割合は、Aが60%、Bが40%となります。
修正要素
修正要素 | 進路変更バイクAの過失が修正される割合 |
---|---|
進路変更禁止場所 | +15% |
Aのウインカーなし | +15% |
Bが初心者マーク等 | +10% |
Aの著しい過失 | +5% |
Aの重過失 | +10% |
Bの時速15km以上の速度違反 | -10% |
Bの時速30km以上の速度違反 | -20% |
Bのその他の著しい過失 | -10% |
Bのその他の重過失 | -20% |
進路変更禁止場所
車両は、車両の進路の変更の禁止を表示する道路標示によって区画されているときは、原則として、その道路標示を超えて進路を変更してはならないとされているため(道路交通法26条の2第3項)、このような進路変更禁止場所での進路変更については、Aの過失が15%加算されます。
ウインカーなし
車線変更車Aがウインカーを出さすに車線変更をした場合、Aの過失が15%加算されます。
初心者マーク等
後続直進車Bがいわゆる初心者マークやシルバーマーク等をつけた自動車である場合、Aの進路変更に際しての注意義務が加重されるため、Aの過失が10%加算されます。
著しい過失と重過失
著しい過失の例としては、脇見運転等著しい前方不注視、著しいハンドル・ブレーキ操作不適切、携帯電話等を通話のためにしようしたり、画像を注視したりしながら運転すること、酒気帯び運転などが挙げられます。
これらの事情がある場合、その運転手の過失が5%加算されます。
重過失は、著しい過失よりも重たい過失がある場合です。例としては、酒酔い運転、居眠り運転、無免許運転、過労、病気及び薬物の影響その他の理由により正常な運転ができないおそれがある場合などが挙げられます。
これらの事情がある場合、その運転手の過失が10%加算されます。
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