渋滞中の車両の間から相手方の車・二輪車が突然出てきて、避けることができなかった。
渋滞する交差点での事故で、被害者の過失が否定された裁判例を知りたい。
この記事は、このような方のために書きました.
こんにちは。静岡の弁護士の山形です。
今回は、渋滞する交差点での事故について、裁判例を見ながら過失割合について解説しています。是非参考にしてみてください。
目次
渋滞車両の間隙を抜けようとした自動車と直進中の単車との事故
まず最初に、渋滞車両の間隙を抜けようとした自動車と直進中の単車との事故の基本的な過失割合について解説します。
いわゆるサンキュー事故といわれる類型の事故です。
渋滞中の車が道を譲ってくれて、譲られた車が慌てて交差点を進行しようとして起こってしまう事故です。
例えば、上記のような交差点での事故が発生した場合、基本的な過失割合は、単車が30%、四輪車が70%です。
渋滞中の交差点での四輪車同士の事故
それでは、裁判例について紹介します。
まずは、交差点での四輪車同士の事故で過失相殺が否定され、被害者の過失が無いと判断された裁判例です。
名古屋地裁・平成23年8月19日判決(交民集44巻4号1086頁)
原告車は、最高速度が時速40㌔㍍に制限されているのに、これに違反し、時速50㌔㍍余りで走行していた。また、反対車線が渋滞していることを認識していたために、進路右側の見通しは非常に悪かったが、進行している南北道路に交差する道路が存在すること自体は認識していた上、左側を注意してみれば交差する道路の存在を認識し得る状態にあったのであり、しかも、交差道路があれば、そこから急に飛び出してくる車両等が出てくる可能性があることは認識していた。上記のような道路状況からすれば、原告としては、反対車線の渋滞により右方の交差道路及びそこから本件交差点に進入してくる車両等の発見が難しいのであるから、交差道路から本件交差点に進入してくる車両との衝突を避けるため、交差道路を見落とさないために十分に前方注視して進行すべきであった。また、少なくとも最高速度である時速40㌔㍍以内の速度で走行するべきであった。しかし、上記認定のとおり、被告車は、別紙見取図②の位置からアクセルを踏んで急いで同③の位置まで進行して、本件事故を発生させたのであるから、被告車は、原告車が本件交差点の直近に迫った時点で、それを見落として突然原告車の前に現れたものということができる。そうであるとすれば、原告が、仮に、同②の位置に停車している被告車を認識したとしても、そのような状況で被告車が停止しているのであるから、当然、被告車は、原告車が通過するまで停止し続けてくれるものと考えて、そのまま進行して本件交差点を通過しようとするのが自然な状況であるといえる。そうすると、原告が左方を注視して交差点の発見をすることまではしなかった点は、本件事故の発生には何の影響も与えなかった(交差点を発見しても、原告は、被告車が停止し続けることを当然期待してそのまま進行したものと考えられる。)というべきである。したがって、本件事故の発生につき原告には、過失相殺をされるほどの過失まではなかったと認めるのが相当である。
事故の状況は以下の図のとおりです。図でいうと、原告が青い車、被告が赤い車です。
裁判所は、原告の制限速度を超える速度違反を認定しました。
一般的には、時速15km以上の速度違反があると「著しい過失」として過失割合が10%不利に修正されますが、今回の原告車の違反は時速10km程度のオーバーだったため、「著しい過失」とは判断されませんでした。
また、事故直前まで停止していた被告車がアクセルを踏んで突然原告車の前に現れたという事情が考慮されて、原告が「被告車は、原告車が通過するまで停止し続けてくれるものと考えて、そのまま進行して本件交差点を通過しようとするのが自然」として、原告の過失が否定されました。
渋滞中のT字路交差点での四輪車同士の事故
次にT字路交差点ので四輪車同士の事故に関する裁判例です。
横浜地裁・平成26年12月2日判決(自保ジャーナル第1941号)
原告は、本件事故現場を通勤等の際に日頃から自動車を運転して通過しており、交差道路から本件道路へ向けて進行してくる車両があることは熟知していたものであり(原告本人)、本件事故の際にも前記認定事実イ(ア)のとおり、本件交差点の原告走行車線の反対車線は、信号待ちの車両が、本件交差点を空けて停止し、被告車は見取図の②の位置に停止していたことが認められ、このような日頃の経験や本件道路の状況及び被告車の停止位置に照らせば、原告は、交差道路から車両が本件道路に進入してくることを予見することが容易であったといえるから、原告にも被告車の動静に注意して走行すべき注意義務を怠った過失を認めることが相当である。
・・・被告の過失の内容・程度等を前提に、本件道路の状況や本件事故態様等を踏まえて比較考量すると、原告に生じた損害から1割の過失相殺をするのが相当である。
事故の状況は以下の図のとおりです。図でいうと、原告が青い車、被告が赤い車です。
こちらの裁判例では、「原告は、本件事故現場を通勤等の際に日頃から自動車を運転して通過しており、交差道路から本件道路へ向けて進行してくる車両があることは熟知していた」という事情が考慮され、「原告は、交差道路から車両が本件道路に進入してくることを予見することが容易であった」として、原告にも1割の過失が認定されました。
事故状況のみならず、事故現場に関する当事者の認識(初めて通った道か、通勤等で利用している道か)も考慮されて過失割合が認定されている点が参考になります。
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