保険会社から「動いている車同士の事故で10対0になることはない」と言われた。
駐車場の事故で過失割合が10対0になった裁判例を知りたい。

この記事は、このような方のために書きました。

こんにちは。静岡の弁護士の山形です。

今回も、前回に続いて駐車場の事故で過失割合が10対0になった裁判例について紹介しています。
直前停止やクラクションが問題になった裁判例については、前回の記事でも紹介していますので、参考にしてみてください。

目次

通路を通過中に駐車区画から突然車両がバックしてきた事故

名古屋高裁平成26年8月28日判決(自保ジャーナル第1933号)

 本件事故は、X車両がY車両の後方の通路を通過しかかっていたところ、Y車両が本件駐車枠から突然後退して来たために発生したものと認められる。
 したがって、Xに過失はなく、Yは、本件駐車枠から北側通路へ後退により進入する際には、北側通路上の車両等の有無及びその動静を確認すべき注意義務があるのに、漫然と北側通路に後退して進入した過失が認められる。

本件は、X車両(下記図の青い車)がクリープ現象を利用して低速度で空いている駐車場を探しながら走行していたところ、Y車両(下記図の赤い車)の後ろをほぼ通過し終えたところで後退してきたY車両と衝突したという事故です。

駐車区画から退出する車と駐車場の通行部分を進行している車の事故の場合、通行部分の進行は、原則として、駐車区画からの退出に対して優先されると考えられていますから、駐車区画退出車の方が重い過失が認定されることが原則となります。
そのため、別冊判例タイムズでは、通路進行車と駐車区画退出車の基本的な過失割合は30:70とされています。

本件では、Xがクリープ現象を利用し低速度で走行していたこと、Y車両の後ろをほぼ通過し終えたところで、突然Y車が後退してきたという事情から、XがY車との衝突を回避することは不可能と考えられ、Xの過失は無しと認定されています。

裁判では、判例タイムズの類型を参考にしつつも、本件のように具体的な事故状況によって、過失割合が有利にも不利にもなりますので注意が必要です。

はみ出して駐車区画に停止していた車両に衝突した事故

東京地裁・平成26年3月4日判決

 この点,Xは,A車が契約外のスペースに駐車していたこと,X駐車区画に30cm近くはみ出していたこと,本件駐車場が暗かったことから,Xに過失がないと主張する。
 しかし,Xには,X車をX駐車区画に駐車させる際,X駐車区画内の障害物の存否を確認し,安全に駐車させるべき注意義務があるのであり,Xが指摘する事実は,Xにおいてこれらの事実を踏まえて安全にX車を駐車させるべきであること,場合によってはX車の駐車を一時的に断念すべきことを導くものにすぎず,Xが負っている上記注意義務を軽減したり,ましてや否定するものではない。

駐車しようと駐車区画に進入していたX車がその隣に停車していたY車に接触してしまったという事故です。

通常、駐車して完全に停止していた車に接触させたのであれば、接触させてしまった者の過失は100%となりますが、本件では、停止していたY車が駐車区画からはみ出て駐車されていたという事情がありました。
そこで、Xは、本件事故が発生したのは、はみ出して駐車していたYの責任であるという主張をしました。

しかし、裁判所は、「駐車区画に駐車する際、駐車区画内の障害物の存否を確認し、安全に駐車させる注意義務がある」としたうえで、もし障害物があるなど事情によっては、駐車を断念すべきであったとして、Xの100%過失を認定しました。

この考え方は、駐車場に限らず、他の場所での事故についても応用できそうですね。
Xの気持ちも分からないでもありませんが、たとえ相手方の車両が駐車区画からはみ出して駐車していたとしても、基本的には、停止車の過失は認められづらいでしょう。

駐車区画にバックで停めようとした車と通行部分にいた車との事故

京都地裁・平成26年1月14日判決(自保ジャーナル第1920号)

 本件事故の衝突場所と原告四輪・被告四輪の衝突箇所,被告四輪が後退右折しようとしていたことに鑑みれば,被告は,右サイドミラーではなく,バックモニターと左サイドミラーを確認していたにすぎないから,被告の進行方向不注視によって,右後方にいた原告四輪を認識できなかったと認められる。したがって,被告が主張するように,被告四輪が後退していたところ,原告四輪は前進・走行してきたとは認められない。
 もちろん,原告四輪は,同一の進路を進行している被告四輪の直後を進行するときは,被告四輪が急に停止したときにおいてもこれに追突するのを避けることができるため必要な距離を,被告四輪から保たなければならない注意義務(道路交通法26条参考)はあった。しかし,原告に,この注意義務違反は認められない。
 むしろ,本件駐車場は,混んでおり,被告は,本件駐車場の通路スペースの一方通行の指定に逆らって進行しようとしたから,被告がハザードランプを動作させる等して,原告四輪に対し,必要な車間距離を保つよう意思表示するべきであった。にもかかわらず,被告はこのような合図をしなかったから,原告に,被告四輪が後退するのを予測し,かつ,そのための車間距離を保持する等の注意義務を課すことはできない。なお,被告四輪が,後退を始めてから尾灯が点灯することをもって,上記合図とは認められない。
 したがって,原告四輪や被告四輪の速度に関わらず,相殺を考慮するべき原告の過失は認められない。

判決文から想像される事故状況の概要は以下のような図になります。

駐車区画進入車(※上の図の青い車)は、「駐車区画への進入に際し、通路における他の四輪車の進行を妨げることになるのであるから、当該通路における他の車両の動静に注視し、当該通路の状況に応じて、他車との衝突を回避することができるような速度と方法で進行する義務を負う」と考えられています(別冊判例タイムズ38号)。

一方、「通路進行車は、駐車区画進入車を発見した場合、駐車区画進入車が駐車区画に収まるまで停止して待機するか、駐車区画進入車と安全にすれ違うことができる程度の距離を確保した上で、駐車区画進入車の動静を常に注視しながら、安全な速度と方法で進行する義務を負う」と考えられています(別冊判例タイムズ38号)。

つまり、駐車区画へ進入する車は、通行部分進行車よりも優先される関係にあるので、両車の事故が発生した場合、原則として通行部分進行車の方が責任が重くなります。
そのため、別冊判例タイムズでは、通路進行車と駐車区画進入車の基本的な過失割合は80:20とされています。

仮に、今回の裁判例も上記別冊判例タイムズが挙げる一般的な通路進行車と駐車区画進入車との事故であれば、むしろ、原告の過失の方が大きくなっていたはずです。

しかし、裁判所は、上記のとおり、被告の進行方向不注視、被告がハザードランプの合図なく逆走したという事情を踏まえて、被告が主張していた過失相殺を否定(被告の100%過失を認定)しています。

 

なお、具体的な事故状況について、判決文からは、必ずしも明らかとなっていませんが、原告車は「前進・走行してきたとは認められない」と認定されていますから、原告車が(直前停止ではなく完全に)停止していたところに被告車が逆突したというケースなのかもしれません。
また、被告車のハザードランプの点灯がなかったという事実について、どのような証拠に基づいて認定されたのかも気になるところです。

バックして駐車区画から退出していた車同士の事故

東京地裁・平成23年7月11日判決(自保ジャーナル第1859号)

 被告は、本件事故当時、後退しようとしていた通路の左右の駐車区画に車両が止まっており、かつ、激しい雨が降っていたのであるから、目視するなどして後方の安全を十分確認しながら後退すべき注意義務があるのにこれを怠り、バックモニターを見るなどしただけで後方の安全確認を十分せず、被告車後方で停止していた原告車に衝突直前まで気付かないで後退し、本件事故を惹起した過失があると認められ、被告は、民法709条に基づき、原告らに生じた損害を賠償すべき責任があるというべきである。
 他方、訴外夏子は、被告車が後退を開始する前に、原告車の後退を始め、切り返しのため、約10秒、通路を塞ぐ状態で原告車を停止させていたところ、後退を開始した被告車から衝突されたものであるから、本件事故の原因は専ら被告にあり、訴外夏子に過失相殺するほどの過失はないというべきである。

お互いに、駐車区画からバックで退出していたとう状況での事故です。

被告(青い車を運転)は、双方後退中の出合い頭の衝突事故であるとして、原告にの80%の過失があると主張していました。

しかし、裁判所は、被告車が後退を開始する前に、原告車(赤い車)が後退を始め、切り返しのため、約10秒、原告車を停止させていたところ、被告車が原告車に衝突したと認定し、原告側の過失を否定しました。

10秒もあれば直前停止とはならないでしょうから、結論は妥当なものと考えられます。

なお、本件では、事故状況について実況見分調書が証拠として重要な意味を持っていたようですが、被告が主張する事故状況に関する内容は、実況見分調書に記載された被告自身の指示説明と矛盾しており、被告の主張が一部認められませんでした。
そのため、事故後、実況見分を行う際には、重要な証拠となり得ることを意識して、正確に事実関係を警察官に伝えることが重要です。

直前停止や停止中の事故については、以下の記事も参考にしてみてください。




当事務所での駐車場内の事故に関する解決事例の一例です。


停止していたことを証明する方法

中には、ドライブレコーダーの映像等がなく、そもそも停止していたか否かが争いになるケースも多くあります。
そのようねケースにおいて、車の傷跡から停止していたことを証明できる場合もありますので、以下の記事を参考にしてみてください。

駐車場事故の過失割合に関する無料相談

いかがでしたか?
今回は、駐車場の事故で過失割合が10:0と判断された裁判例を紹介しました。

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