相手の車が私の車に気が付かずに後退してきたので、私は停止・停車していたのに、保険会社は、私にも過失があると主張してくる。
保険会社から「停止・停車していても、クラクションを鳴らさないと過失になる」と主張されている。
私には過失がないのだから10対0で解決したい!

 

この記事は、このような状況でお困りの方のために書きました。

 

初めまして。弁護士の山形と申します。
今回は、駐車場内での事故の過失割合について、一方が停止・停車していたケースに関する判例を中心に解説していますので、ぜひ参考にしてみてください。
駐車場内での事故で過失割合が10対0と認定された裁判例について、以下の記事でも紹介していますので、参考にしてみてください。

静岡城南法律事務所

弁護士 山形祐生(やまがたゆうき)

静岡県弁護士会所属 登録番号:44537

静岡県交通事故相談所の顧問弁護士(静岡県知事の委嘱による)。
日本交通法学会に所属し、交通事故に関する最新の裁判例等の研究をしている。静岡県外からの相談・依頼も多く、単独で年間に100件以上の交通事故案件を手掛けている。保険会社との交渉を得意とする。案件としては、過失割合、慰謝料、後遺障害、死亡事故に関するものが多い。

目次

駐車区画内で停止していた場合の過失割合

基本的な過失割合

駐車区画に停めようとしている車も、駐車区画から出ようとしている車も、駐車区画内に停止している車にぶつからないようにする義務があります。当然ですね。
一方、駐車区画内に停止している車は、停止しているのですから、迫ってくる車を避けることは困難です。
そのため、駐車区画に停めようとする車や駐車区画から出ようとする車が駐車区画内で停止している車にぶつかった場合、基本的には、駐車区画内で停止している車に過失はないと判断されます。

クラクションを鳴らさなかった過失?

保険会社の担当者の中には、「停止している側も加害者の車が迫ってくることに気が付いていたのならクラクションを鳴らす義務がある。クラクションを鳴らさなかったのは過失になる。」などと主張する場合があります。

クラクションを鳴らさなかったことが過失になるか否かはケースバイケースです。

例えば、通路上に停止して、後退してくる車に対してクラクションを鳴らす余裕があった場合などは、クラクションを鳴らさなかったことが過失と判断される可能性が高いです。

しかし、例えば、以下の裁判例では、駐車区画内に停止中の車がクラクションを鳴らさなかったとしても過失にはならないと判断されています。

そのため、保険会社からクラクションを鳴らさなかったことを指摘されたら、クラクションを鳴らす余裕が無かったことや、以下の裁判例(駐車区画内に停止していたケース)を参考に反論するようにしましょう。

東京地裁・平成25年8月5日判決

原告車は、本件事故の当時、駐車区画内に停止していたことが認められるから原告が被告車の後退してくることに気がついていたとしても、クラクションを鳴らすなどの措置を講じなかったことをもって過失相殺をすべき事由があるとまではいえない。

双方動いている場合の過失割合

では、次に、双方の車が駐車区画に停めようとしていたり、駐車区画から出ようとしていたときに発生した事故について解説します。

駐車区画進入車同士・退出車同士の事故

まずは、双方の車が駐車区画に停めようとして、ぶつかってしまった場合についてです。
基本的には、双方の車に優劣はありませんから、50%:50%を原則とするケースが多く、具体的な状況によって、過失割合が修正されます。
修正されるケースとしては、例えば、一方が先に駐車区画に進入していた場合には、先に進入していた車が若干有利となりますから、先行車40%、後行車60%となることがあります。

駐車区画進入車と退出車との事故

次に、駐車区画に停めようとしている車と別の駐車区画から出ようとしている車がぶつかってしまった場合についてです。
駐車区画から出ようとする車は、元々、駐車区画内で停止しているため、十分に安全を確認して、他の車とぶつからないことを確認するまで通行部分への退出を控えることによって、事故を回避できます。
そのため、基本的には、駐車区画進入車が有利となって、駐車区画進入車30%、駐車区画退出車70%を原則とするケースが多く、具体的な状況によって過失割合が修正されることになります。

進入中・退出中に危険を感じて停止した場合の過失割合

では、駐車区画に停めようとしていたり、駐車区画から出ようとしている最中に、相手方の車の接近に気がついて、途中で停止した場合は、どうなるのでしょうか?

このようなケースについて、裁判例を紹介します。
X車が駐車区画に駐車するために後退中、隣の駐車区画に駐車中のY車が前進を始めたため、X車が停止しましたが、Y車がそのまま前進してX車と接触したという事故について、裁判所は以下のように判断しました。

東京地裁・平成27年1月20日判決(平成26年(レ)第703号)

 Yは、駐車区画から退出するに当たり、前方を注視し、本件駐車場内の通路において駐車のため後退している車両がある場合には、発進を控えるなどしてその駐車を妨げないようにすべき注意義務があったというべきである。
 ところが、Yは、X車がY車の前方で隣接する駐車区画に駐車するために後退を開始していたにもかかわらず、Y車を発進させ、Y車が前進してきたことに気付いて停止したX車の右後部ドアにY車の左前部バンパーを接触させたのであるから、Yには上記注意義務を怠った過失が認められる。
 他方、Y車は、XがY車の前進に気付いてX車を停止させたにもかかわらず、前進を続けて停止したX車に接触したのであるから、本件事故の発生についてXに過失があったとは認められない。
 したがって、本件事故は、Yの一方的な過失によって生じたものというべきであり、本件事故について過失相殺をすることはできない。

このケースでは、XとYの双方が自分は停止していたと主張していましたが、裁判所は、車に生じた擦過傷の位置などからXの主張を認め、停止していたXには過失がない(10対0)と判断しました。

しかし、停止したタイミングや停止した位置によっては、Xにも過失が認められてしまう場合もあるので注意が必要です。

例えば、先ほどの裁判例のXが周囲をきちんと確認せずに後退していたため、Yの前進に気づくのに遅れ、接触の直前にブレーキを踏んで停止したという場合はどうでしょう?
確かに、コンマ何秒かは停止したといえるのでしょうが、Xは直前に停止したに過ぎず、Xにも過失があるといえるでしょう。
いわゆる「直前停止」と言われるものです。

直前停止については、例えば、以下のような裁判例があります。Xが衝突直前に停止したという事案です。

東京地裁・平成27年2月26日判決(平成23年(ワ)第37519号)

 Yは、本件道路を後退して路外駐車場に進入するに当たり、後退開始後の後方注視を怠った結果、X車と衝突するまで後方のX車が近接していることに気付かなかった過失があり、その過失は重い。他方、Xにも、前方のY車の動静に注意すべき義務に違反し、Y車が後退することが予見できる状態であったにもかかわらず、Y車の駐車区画への進入経路付近までX車を走行させて衝突直前に停止した点において、なお不注意な点があったというべきである。
 以上に照らすと、Xについて10%の過失相殺をするのが相当である。

このケースでは、直前停止したXにも過失があると判断しています。
なお、上記裁判例では、Xの過失割合を10%としていますが、必ずしも直前停止車の過失が10%となるわけではなく、具体的な過失割合については、事故状況によって異なるでしょう。

では、どのくらいの時間を停止していれば、過失無しと判断されるのでしょうか?

停止車の停止が通常の停止(過失無し)か直前停止(過失有り)かが争われた裁判例を紹介します。
駐車場内の通路部分を進行していたXが途中で前方のYが後退を始めたことに気が付いて停止したという事案について、裁判所は、以下のように判断しています。

大阪地裁・令和2年1月30日判決(平成30年(ワ)第10343号等)

 結局のところ、既に認定及び説示したとおりの各車両の損傷状況、Y車の動線及び走行態様(低速で徐行したこと)、後退開始から衝突までの時間に係る原告及び被告の供述内容等を踏まえると、Y車が後退を開始してからX車に衝突するまでの時間は、各供述の中間的な数値であるせいぜい3又は4秒程度であったと考えるのが最も自然であり・・・原告は、前方で停止していたY車のブレーキランプが点灯したのを認識してX車を一旦停止させており、Y車の動静に留意しつつ進行していたことが認められる。また、Y車が後退を開始してからX車に衝突するまでの時間が前記認定のとおり(※3又は4秒程度)であることに照らすと、X車がY車の後退を阻む形で直前停止したものとはいえない。
 本件事故は、Y車による純然たる逆突事故であると認められるから、Xに相殺されるべき過失は存在しないというべきである。

この裁判例では、「3又は4秒程度」であれば、「直前停止」に当たらず、停止していたXには、過失がない(10対0)と判断しています。

しかし、停止時間(停止したタイミング)は過失を考慮するうえでの一つの要素に過ぎません。

そのため、衝突までの双方の車両の動き、停止した時点での双方の車両の位置関係・距離、移動している車の速度など、具体的な状況によっては、停止時間が3秒に満たなかったとしても停止車に過失無しと判断されることもありますし、逆に停止時間が3秒以上であっても停止車に過失有りと判断されることもあり得ます。 

ここで1つ注意事項があります。

よく、ご相談者様から「長時間停止していたのに相手方が後方確認を全く怠って衝突したのに、こちらに過失があるのは納得できない」というご相談を受けることがあります。

しかし、その場合、長時間停止していたということは、相手方車両の速度によってはクラクションを鳴らす余裕があったと判断される可能性もあります。
 

また、そもそもドラレコや防犯カメラ映像などの客観的な証拠がないと停止時間について証明することは困難です。

証明方法

では、停止時間を証明するためには、どうしたら良いでしょうか?

まず、固い証拠としては、ドライブレコーダー映像が考えられます。

ただ、事故態様によっては、相手の車が映っていなかったり、衝突音が録音されていなかったりして、どのタイミングで接触したのか分からない場合もあります。
また、ドライブレコーダーが無い、作動していなかったというケースもあります。

そのような場合は、双方の車両の損傷状況、走行態様、当事者の供述なども重要な証拠となります。
先ほど紹介した大阪地裁・令和2年1月30日判決も、ドライブレコーダーの映像は無かったようで、「各車両の損傷状況、Y車の動線及び走行態様(低速で徐行したこと)、後退開始から衝突までの時間に係る原告及び被告の供述内容等」から、停止から接触までの時間を認定しています。
例えば、速い速度の車が衝突すれば、車両に大きな損傷が生じますから、逆に、車両の損傷の程度が軽微であれば、動いていた車の速度は低速であった可能性が高くなります。そして、低速であれば、接触するまでの距離を走行するのに時間が掛かる、という理屈です。
もちろん、各時点での両車両の位置関係・動線も重要となります。

そのため、修理前に車両の損傷状況を撮影しておいたり、記憶が新鮮なうちに、事故状況について、記録しておくことが大切です。

 また、駐車場内の防犯カメラが証拠として考えられます。
しかし、お店側は警察からの要請でないと開示できないと回答することが多いです。
ただ、後に弁護士が弁護士会照会という手続や裁判所を通じて開示を要求すれば開示してくれることもありますので、保存期間が過ぎる前に、防犯カメラ映像のデータを保存しておいてもらうことが重要です。

車の傷跡から停止していたことを証明する方法については、以下の記事も参考にしてみてください。

また、駐車場内の事故で過失割合が10:0になった裁判例については、以下の記事も参考にしてみてください。

当事務所での駐車場内の事故に関する解決事例の一例です。



駐車場事故の過失割合に関する無料相談

いかがでしたか?
今回は、駐車場事故の過失割合について解説しました。

全国の交通事故被害者の方から過失割合についての相談・依頼がありますが、駐車場内での事故に関するものがダントツで多いです。

現在、駐車場内での事故の過失割合について無料相談を実施しています。
特に、弁護士費用特約に加入されている場合には、実質無料で交渉や裁判までご依頼いただけますので、お気軽にご相談ください。

※現在、大変多くの方々からご依頼いただいており、新規案件の対応が困難なため、大変申し訳ありませんが、新規のご相談・ご依頼の受付を停止しております。

 

無料相談の方法(全国対応)

メールやLINEで無料相談

事務所にお越しいただくことなく、メールやLINEで無料相談をしていただけます。
メールやLINEでの無料相談を希望される方は、メール相談LINE(いずれも24時間受付)から、自由にご相談内容を送ってください。
弁護士が直接、回答致しますので、お時間をいただく場合があります。

事務所での面談、電話、Zoomによる無料相談

事務所での面談、電話、Zoomによる無料相談を希望される方は、
お電話(054-689-7792)(平日の9時~17時30分受付)
予約ページ(24時間受付)
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予約ページ、LINEからご予約いただいた場合には、日程調整のご連絡をさせていただきます。
※ご連絡にお時間をいただく場合があります。

弁護士費用

11万円+保険会社等からの回収金額の17.6%(税込)

相談料と着手金は無料です。
弁護士費用は、交渉等が解決した後の完全後払いになります。
※訴訟等の手続に移行する場合や複雑な事案などについては、上記とは異なる料金体系とさせていただくことがありますが、その場合には、ご依頼いただく前にご説明させていただきます。

ところで、「弁護士費用特約」というものをご存じでしょうか?
自動車保険などに付帯している特約のことで、弁護士に依頼する際の弁護士費用を補償してくれます。

弁護士費用特約を使える場合には、補償上限額まで保険会社が弁護士費用を代わりに支払ってくれますので、ほとんどのケースで実質無料で交渉や裁判等を弁護士に依頼できます。

弁護士費用特約を利用しても、保険料は変わりませんので、可能な場合には利用することをお勧めします。

「弁護士費用特約を使えるか分からない」という場合には、弁護士が代わりに保険会社に確認することもできますので、お気軽にご相談ください。

よくある質問

Q静岡県以外の地域に住んでいるのですが、静岡県以外の地域からの相談・依頼は可能ですか?
A

静岡県以外の方からのご相談・ご依頼もお受けしております。
これまで、北海道、青森、福島、福井、東京、群馬、栃木、千葉、神奈川、愛知、長野、岐阜、滋賀、三重、奈良、兵庫、広島、島根、沖縄にお住まいの方からご依頼・ご相談いただいた実績がありますので(令和4年4月現在)、その他地域にお住まいの方もお気軽にご相談・ご依頼ください。

Qケガはなく、物損(車の修理費用など)の過失割合だけが問題になっているのですが、相談・依頼することはできますか?
A

物損だけの事故についてもご相談・ご依頼いただくことは可能ですが、弁護士費用特約のご利用が条件となります。

Q小さな事故で、特に保険会社との間で揉めていないのですが、弁護士に相談しても良いですか?
A

もちろん、問題ありません。
 弁護士に依頼することで、小さなケガであっても示談金額が増額される可能性がありますし、保険会社との対応を全てお任せできるというメリットがありますのでお気軽にご相談ください。

Q他の弁護士に依頼しているのですが、変更して依頼はできますか?
A

現在、依頼している弁護士との契約を解除していただいたうえで、ご依頼いただくことになります。また、弁護士費用特約を利用している場合には、ご自身の保険会社に担当弁護士を変更したい旨を伝えて了承を得てください。現在、依頼している弁護士に変更を申し出づらい場合には、ご相談ください。

Q弁護士費用で費用倒れ(赤字)になることはありませんか?
A

ご相談内容を詳しく伺ったうえで、もし、少しでも費用倒れの可能性がある場合には、必ずご依頼前にご説明させていただきます。万が一、増額した金額よりも弁護士費用が高額となる場合は、増額した金額が弁護士費用の上限となりますので、損をすることはありません。
 なお、弁護士費用特約をご利用の場合は、費用倒れになることはありません。

Qどの段階から費用が発生しますか?
A

相談では一切費用は発生しません。弁護士との間で委任契約書を作成して、正式にご依頼いただいて、弁護士が交渉等の活動を開始した段階から費用が発生致します。
※弁護士費用特約をご利用の場合には、相談料を保険会社にご請求させていただきます。

Q日中は仕事で忙しいので、弁護士事務所に行ったり、電話をしたりすることが難しいのですが・・・
A

夜間や土日祝日に打ち合わせをするこも可能ですし、ご依頼後の弁護士との連絡手段をメールやLINEにすることも可能です。
なお、裁判をせずに示談交渉で解決する場合、ほとんどのケースで、依頼後に事務所での打ち合わせをすることなく終了しています。

Q裁判まではしたくないのですが、交渉で示談することは可能ですか?
A

裁判まで行うか、交渉で示談をして終わらせるかは、依頼者の方が決めることになりますので、交渉での解説を希望される場合には、裁判にはなりません。なお、私がこれまで扱ったケースでは、8割ほどが交渉で解決しています。

Q解決までには、どれくらいの時間が掛かりますか?
A

事案にもよりますが、交渉の場合、治療が終わってから1~2ヶ月程度で示談して終わるケースが多いです。物損のみの場合は、交渉開始から1ヶ月程度のケースが多いです。ただし、後遺障害の申請をしたり、過失割合に争いがあって実況見分調書等を取り寄せる場合には、プラス2、3月程度かかります。
また、裁判の場合は、早くても半年程度は掛かります。私が過去に扱った裁判では、1年~2年で終わるケースが多いです。

Q弁護士に相談したら必ず依頼しなければいけないのでしょうか?
A

もちろん、相談だけで依頼しなくても問題ありません。むしろ、複数の弁護士に会って相談したうえで、最も信頼できる弁護士に依頼することをお勧めします。

静岡城南法律事務所

弁護士 山形祐生(やまがたゆうき)

静岡県弁護士会所属 登録番号:44537

静岡県交通事故相談所の顧問弁護士(静岡県知事の委嘱による)。
日本交通法学会に所属し、交通事故に関する最新の裁判例等の研究をしている。静岡県外からの相談・依頼も多く、単独で年間に100件以上の交通事故案件を手掛けている。保険会社との交渉を得意とする。案件としては、過失割合、慰謝料、後遺障害、死亡事故に関するものが多い。

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