交差点での交通事故について優先道路にあたるか否かが問題になっている。
優先道路の定義、関連する判例を知りたい。
保険会社と過失割合について話し合いがまとまらない。
この記事はこのような事でお困りの方のために書きました。
初めまして。静岡の弁護士の山形祐生と申します。
今回は、優先道路について、解説しています。保険会社との間で優先道路か否かが問題になって困っているという方は是非参考にしてみてください。
目次
優先道路の定義と考え方
法律上、優先道路の定義については、「道路標識等により優先道路として指定されているもの及び当該交差点において当該道路における車両の通行を規制する道路標識等による中央線又は車両通行帯が設けられている道路」(道路交通法36条2項)とされています。
簡単にいうと、①「優先道路」や「前方優先道路」などの標識が設置されている場合や②路面の中央線や車両通行帯が交差点の中までずっとつながっている道路などのことをいいます。
ただし、過失割合について検討するときは、法律上の優先道路にあたるか否か、という単純な問題だけでは解決しないこともあるので注意が必要です。
というのも、判例タイムズ38号によると、「優先道路といっても、その態様は様々であり、幹線道路もあれば、単に中央線が引かれているだけで劣後車側の道路幅と差がない道路もある。幹線道路、片側二車線以上ある道路及び中央分離帯が設置されている道路など、優先性が明らかな優先道路以外の場合においては、一時停止の規制のある場合の基準に準じて考えてよいこともあろう。また、一方が優先道路に該当しない道路である場合でも、一方の広路が幹線道路で他方の狭路が路地に類するときなど、広路の優先性が特に顕著であるときには、本基準に準じて考えてよいこともあろう。」と考えられているからです。
つまり、優先道路に該当したとしても優先性が明らかとはいえない場合には、一時停止の規制のある場合の基準(双方同程度の速度の場合、一時停止違反車の基本的な過失割合が80%)で過失割合が判断される場合もあります。
また、逆に、優先道路に該当しなかったとしても優先道路の場合と同じ基準(優先道路でない道路から交差点に進入した車両の基本的な過失割合が90%)で過失割合が判断される場合があるということです。
そこで、今回は、①優先道路にあたるか否が問題となった裁判例、②優先道路には該当しないが優先道路の場合に準じて過失割合が判断された裁判例、③具体的な状況から優先性の有無を判断した裁判例の3つを紹介します。
交差点の中央線がほぼ消失していたため優先道路として扱われずに過失割合が判断された裁判例
さいたま地裁平成30年11月26日判決
・・・本件事故の態様に照らせば、原告の過失割合は20%、被告の過失割合は80%とするのが相当である。
・・・他方、原告は、本件道路1は中央線が設置された優先道路であるから、本件事故の基本過失割合は原告が10%、被告が90%であると主張する。しかし、証拠(甲15、16)によれば、本件道路1には中央線が設置されているものの、本件事故現場付近における本件道路1では中央線がほぼ消失しており、中央線を確認することが困難な状況になっているものといわざるを得ないから、過失割合を定めるにおいて、本件道路1を中央線が設置された優先道路として扱うことは相当ではない。
事故があった交差点には、中央線が引かれていたものの、自然損耗によって線がほぼ消えてしまっていたため確認するのが困難な状態になっていたという事案です。
原告は、「優先道路かどうかは公安委員会が道路標識等をもって優先関係を指定しているかどうかで一義的に決定されるものであり、道路標識等が自然損耗や経年劣化により認識されにくくなっているという事情は、道路の優先関係に影響を及ぼすものではない。」と主張していました。
しかし、裁判所は、上記のとおり、「中央線がほぼ消失しており、中央線を確認することが困難な状況になっているものといわざるを得ないから、過失割合を定めるにおいて、本件道路1を中央線が設置された優先道路として扱うことは相当ではない。」と判断しました。
中央線がほぼ消失して確認することが困難ということは、いずれの当事者も道路の優先性を認識することが困難ということですから、妥当な判断と考えます。
優先道路には該当しないが優先道路の場合に準じて過失割合が判断された裁判例
大阪地裁令和2年2月21日判決
本件交差点について、兵庫県公安員会による優先道路の規制はなく、また、同委員会による本件交差点内の原告側道路の中央線及び車両通行帯の交通規制はない。また、本件交差点内の白色の破線は、同委員会が設置したものではない。(以上、乙6)
もっとも、本件交差点の西側において、原告側道路は、3車線(西向き車線2車線、東向き車線1車線)になっており、上記白色の破線は、その前後のゼブラゾーンと相まって、原告側道路を西に向かう車両を、適切な車線に誘導するためのものであると認められる(甲2、甲10、乙1)。
原告側道路の最高速度は、時速40kmとされている一方、被告側道路については、特に最高速度の指定はされていない。
被告側道路の被告が進行してきた側から原告側道路の左側(原告が進行してきた側)への見通しは,その角に大きな樹木が植えられていることから、悪くなっており、被告車両は、一時停止線から更に進行し、別紙の(P)地点まで進まなければ、原告側道路を確認することができなかった。
・・・原告側道路が被告側道路に対して優先道路である旨指定されているわけではないことは、前記認定事故態様アのとおりである。また、本件事故現場の道路状況や道路の広狭は、別紙記載のとおりであるところ(甲2、乙1)、本件交差点内に敷設された白色の破線は、中央線であると断定することはできない。そうすると、原告側道路が被告側道路に対して優先道路であるといい切ることはできない。
しかしながら、被告側道路は、原告側道路に対して、北側も南側も一時停止規制がされている。また、本件交差点において、白色破線部分はかなり幅が広く、本件交差点の西側では、原告側道路が3車線になっていることからも、原告側道路は、被告側道路に比べて幅員が明らかに広いものと認められる。以上に照らせば、原告側道路と被告側道路のいわゆる優劣関係においては、原告側道路を優先道路とする場合に、ほぼ準じて考えることが相当である。
原告側道路に優先道路としての指定はなく、また交差点内の白線は中央線であると断定することもできないことから、「原告側道路が被告側道路に対して優先道路であるといい切ることはできない。」と判断しています。
しかし、「被告側道路は、原告側道路に対して、北側も南側も一時停止規制がされている。また、本件交差点において、白色破線部分はかなり幅が広く、本件交差点の西側では、原告側道路が3車線になっていることからも、原告側道路は、被告側道路に比べて幅員が明らかに広いものと認められる。」という事情から、「原告側道路と被告側道路のいわゆる優劣関係においては、原告側道路を優先道路とする場合に、ほぼ準じて考えることが相当である。」と判断して、原告(二輪車):被告(普通貨物自動車)の過失割合を10:90と認定しました。
判例タイムズで解説されていた「一方が優先道路に該当しない道路である場合でも、一方の広路が幹線道路で他方の狭路が路地に類するときなど、広路の優先性が特に顕著であるときには、本基準に準じて考えてよいこともあろう。」という考え方の一例として参考になります。
具体的な事情から道路の優先性の有無を判断した裁判例
大阪地裁平成27年1月13日判決
片方の進路が優先道路(道路交通法36条2項)にあたる場合には,徐行義務はない(同法42条1項参照)。その意味において,優先道路であるか否かというのは過失割合の判断に一定の影響を与えるものである。しかし,その一方で,優先道路を走行している車両についても同法36条4項の注意義務が免除されているわけではないから,優先道路を走行しているからといって当然に過失が否定されるわけではなく,具体的な場面,状況等に応じ,一定の過失が肯定されることもある。したがって,優先道路性が認められるか否かによって,過失の有無及び過失割合が一義的に定まるものではない(逆に,具体的な状況によっては,優先道路としての法的要件を満たしていない場合でも,それに匹敵する絶対的優先性が一方道路に認められることもありうる。)。双方の過失を考える上では,法的な意味での優先道路に該当するか否かというだけでなく,双方進行道路の具体的な状況や相互関係が重要になり,公安委員会における優先道路指定の有無,交差点内における中央線表示の有無及び明確性,双方進行道路の幅員や車線数の差異,中央分離帯の有無,その他の規制・標識状況等様々な事情を考慮して,当該交差点において,一方にどれだけの優先性が認められる形で交通秩序が成立していたかを,具体的に認定する必要がある。
上記によれば,①南北道路の少なくとも南側については中央線が破線で示されており,一方東西道路には中央線が設定されていなかったこと,②交差点内部に白い表示とおぼしきものが一部あり,写真等を事後的に検討すれば,これを中央線の一部と解釈する余地もあり得ること,③南北道路の幅員は車道部分で6メートル,それに左右合計で約2.2メートルの路側帯がある一方,東西道路の幅員は5メートルであり,一応南北道路の幅員が広いこと,というような事情があり,これらは原告側に有利な事情である。
しかし,④本件交差点には公安委員会による優先道路の指定はなく,道路行政としては南北道路に優先道路としての絶対的優先性を与える意思はなく,一時停止規制の範囲にとどめていたものと考えられること,⑤交差点内の白い表示は相当に不明確なものである上,南北道路北側には中央線が設定されていない状況であり,中央線が交差点を貫通する形で明確に示されている状況とはほど遠く,走行中の車両の運転手という立場において,道路表示のみによって優先道路性を容易かつ即座に判断できる状況にあったとはいえないこと,⑥両道路の車道部分の幅員の差は約1メートルにすぎず(なお,道路の幅員差は車道同士で比較し(最高裁第2小法廷昭和47年1月21日判決・刑集26-1-36参照),車道ではない路側帯の幅員は考慮しない。),南北道路に片側複数車線があるわけでもなく,中央分離帯が設置されているわけでもないのであって,道路形状・幅員等の関係から優先性・幹線道路性が一見して明らかであるともいえないこと,⑦交差点南側には「交差点注意」の白いペイントがあり,また交差点には黄色点滅信号が設置されている状況であって,南北道路を南から進行してくる車両に対しても,東西道路からの車両に十分注意して進行することが要求される標識となっていたこと等の事情があり,これらはいずれも優先性を否定する方向に強く働く事情である。
以上を考慮すると,南北道路が法的に優先道路にあたりうるかどうかはともかく,少なくとも本件交差点において,東西道路に一時停止規制があるという範囲を超えて,南北道路に優先道路としての絶対的な優先性が与えられているということを前提とした交通秩序が成り立っていたとはいえない。したがって,双方の過失割合を考慮する場合には,このことを前提として検討することとなる。
その前提で双方の過失を検討すると,被告は一時停止規制に反し,一時停止はおろか徐行もすることなく,原告車両に気がつかないまま時速30キロメートルで交差点に進入し,衝突したのであって,その過失は大きい。その一方で,Aにおいても進行道路の優先性を過信することなく,東西道路の状況に十分に注意して進行すべき義務があったのであり,一定の過失は免れない。過失割合としては,A2,被告8とするのが相当である。
優先道路性が争点となっていましたが、裁判所は、「優先道路性が認められるか否かによって,過失の有無及び過失割合が一義的に定まるものではない」としたうえで、事故現場の道路状況を具体的に認定し、「南北道路が法的に優先道路にあたりうるかどうかはともかく,少なくとも本件交差点において,東西道路に一時停止規制があるという範囲を超えて,南北道路に優先道路としての絶対的な優先性が与えられているということを前提とした交通秩序が成り立っていたとはいえない。」と判断しました。
判決について長文の引用となりましたが、裁判所がどのような事情から優先性を判断しているから具体的に記載されていますので、是非参考にしてみてください。
形式的に優先道路に該当するか否かではなく、具体的な道路状況から絶対的な優先性が与えられているか否かとう点について判断するという考え方は参考になります。
裁判例の検討
上記の裁判例を踏まえると、形式的に優先道路に該当するか否かという点だけではなく、実際の道路の状況等から優先性を肯定する事情があるか否かという点も重要となりそうです。
具体的な事情としては、上記裁判例では、例えば、
・双方の車線の最高速度
・交差点内の中央線表示の有無、明確性
・中央分離帯の有無
・交差道路の一時停止規制の有無
・それぞれの道路幅、車線数
・交差点前に設置された標識(路面標識を含む。)の内容
などの事情が考慮されています。
したがって、仮に、優先道路に該当しないとしても、上記各事情について主張して優先道路に準じる形で有利な過失割合を主張していくことも考えられます。
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