後から交差点に入ってきた相手の車に横から突っ込まれた。
私は避けられなかったのに、私にも過失があるのは納得がいかない!

保険会社は「動いている車同士では0対10にならない」と言ってくる。

この記事は、このような状況で過失割合について詳しく知りたいと思っている方のために書きました。

こんにちは!静岡の弁護士の山形です。
今回は、交差点での交通事故の基本的な過失割合について、「明らかな先入」を中心に検討・解説していますので、ぜひ参考にしてみてください。

静岡城南法律事務所

弁護士 山形祐生(やまがたゆうき)

静岡県弁護士会所属 登録番号:44537

静岡県交通事故相談所の顧問弁護士(静岡県知事の委嘱による)。
日本交通法学会に所属し、交通事故に関する最新の裁判例等の研究をしている。静岡県外からの相談・依頼も多く、一人で年間120件以上の交通事故案件を手掛けている。慰謝料、後遺障害、過失割合に関する交渉・裁判を得意とする。

目次

衝突された側には過失はない?

自分が先に交差点に入って、後から交差点に入ってきた相手に横から突っ込まれた。
私もよくご相談を受ける事故状況です。

確かに、後から交差点に入ってきた相手方に衝突された場合、自分は避けられなかったのだから過失はないはずだ、というお気持ちはよく分かります。
しかし、裁判実務で、信号機が設置されていない交差点での事故で過失なし(0:100)となるケースはかなり限られています。

そこで、まずは、交差点での事故における基本的な過失割合の考え方を解説します。

基本的な過失割合

交通事故の過失割合については、過去の裁判例等からある程度類型化され、「別冊判例タイムズ38」(東京地裁民事交通訴訟研究会編)という本で事故状況ごとに、整理されています。

別冊判例タイムズでは、信号機がなく、どちらも同じような幅の交差点で、どちらも同程度の速度で事故が起きた場合、基本的な過失割合は、40:60とされています(【101】図)。
交差点では、左方優先の原則がありますから(道路交通法36条1項1号)、左方の車、つまり、下の図でいうと青い車の方が過失割合は小さく、40%となります。

左方の青い車が減速せず、赤い車が減速した場合の基本的な過失割合は、青い車が60%、赤い車が40%です。
左方の青い車が減速して、赤い車が減速しなかった場合の基本的な過失割合は、青い車が20%、赤い車が80%です。

「減速した」といえるためには、「一般に、時速40km制限の場所では、おおむね時速20km前後まで減速した場合を想定しており、このような場所で時速60kmを時速30kmに減速しただけでは足りない。」と言われています(別冊判例タイムズ)。

一方の車両の明らかな先入

では、「自分が交差点に入った後に相手方が交差点に入ってきて、衝突された」というケースではどうなるのでしょうか。
先に交差点に入った方は、事故を避けられなかったから過失なしとなるのでしょうか。

別冊判例タイムズでは、「一方の車両の先入が明らかな場合・・・他方の車両には、著しい過失があるとしてよい。」と、10%の修正があるとされています。

つまり、「自分が先に交差点に入って、後から交差点に入ってきた相手方にぶつけられた」という場合、「明らかな先入」による過失割合の修正がされる可能性があります。

しかし、あくまで基本的な過失割合から10%修正されるに過ぎませんから、先入車の過失が必ず0になるわけではありません。

また、修正要素とされるためには、単なる先入ではなく、「明らかな」先入であることが必要です。
当然ですが、ちょっとでも先に進入していれば、過失割合が有利になるわけではありません。

「明らかな先入」の定義について、判例タイムズでは、1つの例として「A車の通常の速度(制限速度内)を基準として、A車が、B車の交差点進入時に、直ちに制動又は方向転換の措置をとれば容易に衝突を回避することができる場合」が挙げられています。

例えば、先に交差点に進入したA車がかなり減速していて、後から交差点に進入したB車は、A車との衝突を避ける時間的な余裕があったのに衝突してしまったというような場合に、A車の「明らかな先入」が認められ、B車に不利に過失割合が修正されます。
このとき、A車とB車の速度などの諸事情から、B車がブレーキをかけたり、ハンドルを切ったりして、容易にA車との衝突を回避することができたか否か判断されます。

裁判例の紹介

では、実際に「明らかな先入」が問題となった裁判例を紹介していきます。

神戸地裁・平成30年4月12日判決

まずは、信号機が設置されていた交差点での事故に関するものです。

神戸地裁・平成30年4月12日判決

原告車は時速約66kmで南北道路を北から南に向かって進行し、被告車は時速約50kmで東西道路を東から西に向かって進行していたこと、本件事故は、南北道路の交差点北側手前の停止線から約35.4m、東西道路の交差点東側手前の停止線から約20.8mの本件交差点内の地点で発生したことが認められ、原告車と被告車が本件交差点に進入した時間差は約0.43秒(原告車の進入距離約7.8m)にすぎないから、原告車の明らかな先入を認めることはできない。

 

裁判所は、原告車と被告車の速度、それぞれの停止線から衝突地点までの距離などから両車両が交差点に進入した時間差と原告車の進入距離を計算したうえで、「時間差は約0.43秒(原告車の進入距離約7.8m)にすぎないから、原告車の明らかな先入を認めることはできない。」と判断しています。

神戸地裁・平成30年1月11日判決

次は、自動車と大型自動二輪車の交差点での事故に関する裁判例です。

神戸地裁・平成30年1月11日判決

捜査報告書(乙7)には、仮に原告車が通常の状態(時速50kmないし70km)で走行していたとしても、被告車と原告車の衝突回避は不可能であったことが指摘されており、劣後する被告車(四輪車)の明らかな先入を認めることはできない。

この事案では、原告車(自動二輪車)が制限速度を時速30km以上超過した速度で走行していましたが、仮に、制限速度に近い速度(時速50kmないし70km)で走行していたとしても、衝突を回避することが不可能であったことが認定されています。

先ほど紹介した判例タイムズの「A車の通常の速度(制限速度内)を基準として、A車が、B車の交差点進入時に、直ちに制動又は方向転換の措置をとれば容易に衝突を回避することができる場合」にあたるか否か、捜査報告書に基づいて検討している点が参考になります。

福岡地裁・平成26年1月30日判決

福岡地裁・平成26年1月30日判決

原告は、少なくとも被告車両を発見した時点でハンドル・ブレーキを的確に操作すれば被告車両との衝突を回避できたという点で、過失があると認められる。
・・・しかし、上記(1)の諸事情、殊に、原告進行車線が被告車両との関係では優先道路であること、本件事故当時における被告車両の走行態様、被告車両が本件交差点に進入してから本件事故発生までの時間的間隔等に照らすと、原告が被告車両に気付いた地点や被告車両との衝突の危険を感じた地点から衝突地点までの各距離等のほか、前掲証拠で指摘された諸点を十分考慮したとしても、原告が被告車両との衝突を容易に回避できる状況にあったとまではいえないから、原告に著しい前方不注視や著しく不適切な運転方法といった「著しい過失」があるとまでは認められず、被告らの上記主張は採用できない。

この裁判例では、被告車両を発見した時点でハンドル・ブレーキを的確に操作すれば被告車両との衝突を回避できたから過失はあるけど、衝突を「容易に」回避できる状況とまではいえないとして、原告の「著しい過失」が否定されています。

 

この裁判例と1つ前に紹介した神戸地裁・平成30年1月11日判決は、いずれも「明らかな先入」を否定しているという点で同じです。
しかし、神戸地裁の裁判例は、そもそも衝突を回避できなかったというケースですが、この裁判例は、衝突は回避できたけど、それが「容易」とまではいえない、という点で異なります。

東京地裁・平成24年3月30日判決

東京地裁・平成24年3月30日判決

以上の認定事実によれば、①X車進行路の幅員がY車進行路の幅員よりも明らかに広いとまではいえず、したがって、左方車であるY車が優先する関係にあること(道路交通法36条1項1号)、②被告Y及び原告Xには、見通しのきかない本件交差点に進入するにあたり徐行すべき義務があるところ(道路交通法42条1号)、X車が本件交差点に進入するに当たり相当程度減速したのに対し、Y車は減速することなく時速約45kmのまま本件交差点に進入したこと、③本件交差点の南東角は空き地になっていることから、被告Yは、X車が本件交差点に進入する前にX車を発見することが可能であるにもかかわらず、進行方向の遠方を見ながら走行していたため、X車が本件交差点に進入するまでX車に気が付かず、本件交差点に先入したX車に衝突したものであることを併せ考慮すると、本件事故発生に関する過失割合は、被告Y70%、原告X30%とするのが相当である。

この裁判例の事故状況について、補足します。
次の図でいうと、左方の車であるYが青い車、Xが赤い車です。

Yは減速していなかった、Xは減速していたということですから、判例タイムズによる基本的な過失割合は、Y60%:X40%となります(判決文の①、②)。
そして、Yの前方不注視とX車の交差点への先入を理由に(判決文の③)、Yに10%不利に修正して、最終的にY70%:X30%と判断しました。
X車の交差点への先入について、「明らかな」先入とまでは認めていませんが、Yの前方不注視などの事情を総合考慮して、Yに10%不利に修正しています。

なお、そもそも前方不注視がなければ事故は発生しないので、「著しい過失」と認定されるためには、脇見運転のように「著しい」前方不注視であることが必要となります。
このケースでは、Yは、一応、進行方向を見ており、(衝突までX車に気がつかなかったというわけではなく)交差点進入時にはX車に気がついていたため、「著しい前方不注視」までは認められなかったと思われます。

裁判例の検討結果

以上、紹介した裁判例からも分かるとおり、一方車両の明らかな先入、つまり、制限速度内で交差点進入時に、直ちにハンドル・ブレーキを的確に操作すれば先入車との衝突を「容易に」回避できたというのは、かなりハードルが高いのではないかと思われます。

しかし、明らかな先入とまでは認められなくても、前掲の東京地裁・平成24年3月30日判決のように後から交差点進入した車に前方不注視(道路交通法70条)等が認定されるなど、各事情の総合考慮で、修正がされることがあります。

そこで、事情によっては、衝突された側としては、「明らかな先入」を主張しつつ、相手方の著しい前方不注視等による修正も合わせて主張するのが得策かと思います。

 

なお、信号機のない交差点での事故で過失割合が0:100と判断された事例について、もっと知りたいという方は、以下の記事も参考にしてみてください。

交差点事故の過失割合に関する無料相談

いかがでしたか?
今回は、明らかな先入が問題となった交差点事故の過失割合について解説しました。

現在、明らかな先入が問題となる交差点事故の過失割合について無料相談を実施しておりますので、お気軽にご相談ください。
※現在、大変多くの方々からご依頼いただいており、新規案件の対応が困難なため、大変申し訳ありませんが、新規のご相談・ご依頼の受付を停止しております。

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