相手の車が私の車に気が付かずに後退してきたので、私は停止・停車していたのに、保険会社は、私にも過失があると主張してくる。
保険会社から「停止・停車していても、クラクションを鳴らさないと過失になる」と主張されている。
私には過失がないのだから10対0で解決したい!

 

この記事は、このような状況でお困りの方のために書きました。

今回は、駐車場内での事故の過失割合について、一方が停止・停車していたケースに関する判例を中心に解説していますので、ぜひ参考にしてみてください。

静岡城南法律事務所

德田匡輝(とくだまさてる)

静岡県 登録番号:64322

日本交通法学会所属。弁護士としては珍しく、特に過失割合の問題に強い。駐車場事故、車線変更、交差点での事故など、保険会社が提示する過失割合に納得のいかない被害者からの依頼が多い。最近では、口コミを聞いた静岡県外からの相談・依頼も増えている。

目次

駐車区画内で停止していた場合の過失割合

基本的な過失割合

駐車区画に停めようとしている車も、駐車区画から出ようとしている車も、駐車区画内に停止している車にぶつからないようにする義務があります。当然ですね。
一方、駐車区画内に停止している車は、停止しているのですから、迫ってくる車を避けることは困難です。
そのため、駐車区画に停めようとする車や駐車区画から出ようとする車が駐車区画内で停止している車にぶつかった場合、基本的には、駐車区画内で停止している車に過失はないと判断されます。

クラクションを鳴らさなかった過失?

保険会社の担当者の中には、「停止している側も加害者の車が迫ってくることに気が付いていたのならクラクションを鳴らす義務がある。クラクションを鳴らさなかったのは過失になる。」などと主張する場合があります。

クラクションを鳴らさなかったことが過失になるか否かはケースバイケースです。

例えば、通路上に停止して、後退してくる車に対してクラクションを鳴らす余裕があった場合などは、クラクションを鳴らさなかったことが過失と判断される可能性が高いです。

しかし、例えば、以下の裁判例では、駐車区画内に停止中の車がクラクションを鳴らさなかったとしても過失にはならないと判断されています。

そのため、保険会社からクラクションを鳴らさなかったことを指摘されたら、クラクションを鳴らす余裕が無かったことや、以下の裁判例(駐車区画内に停止していたケース)を参考に反論するようにしましょう。

東京地裁・平成25年8月5日判決

原告車は、本件事故の当時、駐車区画内に停止していたことが認められるから原告が被告車の後退してくることに気がついていたとしても、クラクションを鳴らすなどの措置を講じなかったことをもって過失相殺をすべき事由があるとまではいえない。

双方動いている場合の過失割合

では、次に、双方の車が駐車区画に停めようとしていたり、駐車区画から出ようとしていたときに発生した事故について解説します。

駐車区画進入車同士・退出車同士の事故

まずは、双方の車が駐車区画に停めようとして、ぶつかってしまった場合についてです。
基本的には、双方の車に優劣はありませんから、50%:50%を原則とするケースが多く、具体的な状況によって、過失割合が修正されます。
修正されるケースとしては、例えば、一方が先に駐車区画に進入していた場合には、先に進入していた車が若干有利となりますから、先行車40%、後行車60%となることがあります。

駐車区画進入車と退出車との事故

次に、駐車区画に停めようとしている車と別の駐車区画から出ようとしている車がぶつかってしまった場合についてです。
駐車区画から出ようとする車は、元々、駐車区画内で停止しているため、十分に安全を確認して、他の車とぶつからないことを確認するまで通行部分への退出を控えることによって、事故を回避できます。
そのため、基本的には、駐車区画進入車が有利となって、駐車区画進入車30%、駐車区画退出車70%を原則とするケースが多く、具体的な状況によって過失割合が修正されることになります。

進入中・退出中に危険を感じて停止した場合の過失割合

では、駐車区画に停めようとしていたり、駐車区画から出ようとしている最中に、相手方の車の接近に気がついて、途中で停止した場合は、どうなるのでしょうか?

このようなケースについて、裁判例を紹介します。
X車が駐車区画に駐車するために後退中、隣の駐車区画に駐車中のY車が前進を始めたため、X車が停止しましたが、Y車がそのまま前進してX車と接触したという事故について、裁判所は以下のように判断しました。

東京地裁・平成27年1月20日判決(平成26年(レ)第703号)

 Yは、駐車区画から退出するに当たり、前方を注視し、本件駐車場内の通路において駐車のため後退している車両がある場合には、発進を控えるなどしてその駐車を妨げないようにすべき注意義務があったというべきである。
 ところが、Yは、X車がY車の前方で隣接する駐車区画に駐車するために後退を開始していたにもかかわらず、Y車を発進させ、Y車が前進してきたことに気付いて停止したX車の右後部ドアにY車の左前部バンパーを接触させたのであるから、Yには上記注意義務を怠った過失が認められる。
 他方、Y車は、XがY車の前進に気付いてX車を停止させたにもかかわらず、前進を続けて停止したX車に接触したのであるから、本件事故の発生についてXに過失があったとは認められない。
 したがって、本件事故は、Yの一方的な過失によって生じたものというべきであり、本件事故について過失相殺をすることはできない。

このケースでは、XとYの双方が自分は停止していたと主張していましたが、裁判所は、車に生じた擦過傷の位置などからXの主張を認め、停止していたXには過失がない(10対0)と判断しました。

しかし、停止したタイミングや停止した位置によっては、Xにも過失が認められてしまう場合もあるので注意が必要です。

例えば、先ほどの裁判例のXが周囲をきちんと確認せずに後退していたため、Yの前進に気づくのに遅れ、接触の直前にブレーキを踏んで停止したという場合はどうでしょう?
確かに、コンマ何秒かは停止したといえるのでしょうが、Xは直前に停止したに過ぎず、Xにも過失があるといえるでしょう。
いわゆる「直前停止」と言われるものです。

直前停止については、例えば、以下のような裁判例があります。Xが衝突直前に停止したという事案です。

東京地裁・平成27年2月26日判決(平成23年(ワ)第37519号)

 Yは、本件道路を後退して路外駐車場に進入するに当たり、後退開始後の後方注視を怠った結果、X車と衝突するまで後方のX車が近接していることに気付かなかった過失があり、その過失は重い。他方、Xにも、前方のY車の動静に注意すべき義務に違反し、Y車が後退することが予見できる状態であったにもかかわらず、Y車の駐車区画への進入経路付近までX車を走行させて衝突直前に停止した点において、なお不注意な点があったというべきである。
 以上に照らすと、Xについて10%の過失相殺をするのが相当である。

このケースでは、直前停止したXにも過失があると判断しています。
なお、上記裁判例では、Xの過失割合を10%としていますが、必ずしも直前停止車の過失が10%となるわけではなく、具体的な過失割合については、事故状況によって異なるでしょう。

では、どのくらいの時間を停止していれば、過失無しと判断されるのでしょうか?

停止車の停止が通常の停止(過失無し)か直前停止(過失有り)かが争われた裁判例を紹介します。
駐車場内の通路部分を進行していたXが途中で前方のYが後退を始めたことに気が付いて停止したという事案について、裁判所は、以下のように判断しています。

大阪地裁・令和2年1月30日判決(平成30年(ワ)第10343号等)

 結局のところ、既に認定及び説示したとおりの各車両の損傷状況、Y車の動線及び走行態様(低速で徐行したこと)、後退開始から衝突までの時間に係る原告及び被告の供述内容等を踏まえると、Y車が後退を開始してからX車に衝突するまでの時間は、各供述の中間的な数値であるせいぜい3又は4秒程度であったと考えるのが最も自然であり・・・原告は、前方で停止していたY車のブレーキランプが点灯したのを認識してX車を一旦停止させており、Y車の動静に留意しつつ進行していたことが認められる。また、Y車が後退を開始してからX車に衝突するまでの時間が前記認定のとおり(※3又は4秒程度)であることに照らすと、X車がY車の後退を阻む形で直前停止したものとはいえない。
 本件事故は、Y車による純然たる逆突事故であると認められるから、Xに相殺されるべき過失は存在しないというべきである。

この裁判例では、「3又は4秒程度」であれば、「直前停止」に当たらず、停止していたXには、過失がない(10対0)と判断しています。

しかし、停止時間(停止したタイミング)は過失を考慮するうえでの一つの要素に過ぎません。

そのため、衝突までの双方の車両の動き、停止した時点での双方の車両の位置関係・距離、移動している車の速度など、具体的な状況によっては、停止時間が3秒に満たなかったとしても停止車に過失無しと判断されることもありますし、逆に停止時間が3秒以上であっても停止車に過失有りと判断されることもあり得ます。 

ここで1つ注意事項があります。

よく、ご相談者様から「長時間停止していたのに相手方が後方確認を全く怠って衝突したのに、こちらに過失があるのは納得できない」というご相談を受けることがあります。

しかし、その場合、長時間停止していたということは、相手方車両の速度によってはクラクションを鳴らす余裕があったと判断される可能性もあります。
 

また、そもそもドラレコや防犯カメラ映像などの客観的な証拠がないと停止時間について証明することは困難です。

証明方法

では、停止時間を証明するためには、どうしたら良いでしょうか?

まず、固い証拠としては、ドライブレコーダー映像が考えられます。

ただ、事故態様によっては、相手の車が映っていなかったり、衝突音が録音されていなかったりして、どのタイミングで接触したのか分からない場合もあります。
また、ドライブレコーダーが無い、作動していなかったというケースもあります。

そのような場合は、双方の車両の損傷状況、走行態様、当事者の供述なども重要な証拠となります。
先ほど紹介した大阪地裁・令和2年1月30日判決も、ドライブレコーダーの映像は無かったようで、「各車両の損傷状況、Y車の動線及び走行態様(低速で徐行したこと)、後退開始から衝突までの時間に係る原告及び被告の供述内容等」から、停止から接触までの時間を認定しています。
例えば、速い速度の車が衝突すれば、車両に大きな損傷が生じますから、逆に、車両の損傷の程度が軽微であれば、動いていた車の速度は低速であった可能性が高くなります。そして、低速であれば、接触するまでの距離を走行するのに時間が掛かる、という理屈です。
もちろん、各時点での両車両の位置関係・動線も重要となります。

そのため、修理前に車両の損傷状況を撮影しておいたり、記憶が新鮮なうちに、事故状況について、記録しておくことが大切です。

 また、駐車場内の防犯カメラが証拠として考えられます。
しかし、お店側は警察からの要請でないと開示できないと回答することが多いです。
ただ、後に弁護士が弁護士会照会という手続や裁判所を通じて開示を要求すれば開示してくれることもありますので、保存期間が過ぎる前に、防犯カメラ映像のデータを保存しておいてもらうことが重要です。

車の傷跡から停止していたことを証明する方法については、以下の記事も参考にしてみてください。

また、駐車場内の事故で過失割合が10:0になった裁判例については、以下の記事も参考にしてみてください。

当事務所での駐車場内の事故に関する解決事例の一例です。

新規のご相談・ご依頼の受付停止のお知らせ

誠に恐れ入りますが、現在、多くのご相談・ご依頼をいただいており、新規案件の対応が困難な状況となっております。
そのため、現在、新規案件のご相談・ご依頼を一時停止させていただいております。

新規相談の受付再開の際には、当事務所のホームページにてご案内いたします。

何卒ご理解賜りますようお願い申し上げます。

静岡城南法律事務所

德田匡輝(とくだまさてる)

静岡県 登録番号:64322

日本交通法学会所属。弁護士としては珍しく、特に過失割合の問題に強い。駐車場事故、車線変更、交差点での事故など、保険会社が提示する過失割合に納得のいかない被害者からの依頼が多い。最近では、口コミを聞いた静岡県外からの相談・依頼も増えている。

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