正社員・フルタイムの兼業主婦は休業損害が認められないと保険会社から主張されている。
この記事はこのようなことでお困りの方のために書きました。
初めまして。弁護士の德田と申します。
専業主婦やパートタイムの兼業主婦の休業損害が認められることについては、そこまで争いになることは少ないかと思いますが、正社員・フルタイムの兼業主婦については、保険会社の対応が厳しくなることが多くなります。
そこで、実際の裁判例をもとに、整理して解説しますので、参考にしてみてください。
目次
正社員・フルタイムの兼業主婦の休業損害に関する一般的な考え方
残念ながら、今の裁判では、正社員・フルタイムの兼業主婦は、専業主婦と比較すると家事労働の質や量が低下することが通常と考えられているため、特別な事情がない限り、家事労働と会社などでの労働を合わせて一人前の労働として評価される傾向にあります。
そのため、受傷後も仕事を休まず収入が減らなかった場合には、休業損害は否定される傾向にあります。
ただし、事情によっては、慰謝料で考慮されたり、支出した家政婦代等が損害として認められる可能性があります。
以下では兼業主婦の休業損害が認められなかった裁判例と認められた裁判例について解説します。
兼業主婦の休業損害が認められなかった事例①(大阪地判令和元年5月30日)
原告であるX1は保育園を経営する兼業主婦であり、父母、祖母、娘X2と同居していたという事案です。
裁判所は以下のとおり、主婦としての休業損害の発生を否定しました。
原告X1は、本件第1事故及び本件第2事故当時、同人の父、母、祖母及び原告X2と同居して生活していた。原告X1は、本件第1事故以前から保育園を経営しており、勤務時間は平日が午前7時頃から午後8時30分頃まで、土曜日が午前9時前から午後6時過ぎまでであり、日曜日及び祝日は休日であった。原告X1は、勤務時間中は保育園で仕事をしており、本件第1事故後も本件第2事故後も、仕事を特に休んでおらず、原告X1自身の収入は減少していない…。
…原告X1の就業状況等は、前記…認定のとおりであり、原告X1は、本件第1事故以前から経営する保育園において、平日の午前7時頃から午後8時30分頃まで及び土曜日の午前9時前から午後6時過ぎまで勤務しており、本件第1事故後も仕事を特に休んでおらず、収入も減少していないから、本件…事故によって原告X1に休業損害が発生したとは認められない。
本件では、X1は仕事を休んでおらず減収がないことから休業損害が否定されています。
やはり、フルタイムの兼業主婦で本業に減収がない場合には、休業損害は認めないという一般的な傾向とおりの判断です。
兼業主婦の休業損害が認められなかった事例②(福岡高判平成26年2月28日)
次に紹介する裁判例の原告は、正社員の兼業主婦です。原告は会社員のため、事故後に昇給して、年収が増加し、減収が無かったという事情があります。
こちらも以下のとおり、休業損害が否定されています。
控訴人は、本件事故前は家事を100%しており、本件事故により家事労働が十分にできなくなったことについて、主婦休業を認めるべきであると主張し、控訴人の夫は、その陳述書において、本件事故により控訴人が負傷し、家事ができなくなり、夫が家事労働を手伝ったことなどをのべている…。
しかしながら,控訴人は、本件事故当時45歳で、会社勤務の夫と2人暮らしであり、本件事故の前年である平成22年には約542万円、本件事故のあった平成23年は約558万円の給与収入があり、これは、平成23年の賃金センサス女性の学歴計全年齢平均賃金(355万9000円)、同学歴計45歳から49歳の平均賃金(392万5900円)より高額な収入であった…。
以上からすると、控訴人は給与収入により生計を立てていることは明らかであり、家事労働分を加算すべき事情は認められない。控訴人の負傷による苦痛や、家族が家事の手伝いをしたとしても、収入減少として勘案することは妥当ではなく、この点の控訴人の主張は採用できない。
裁判所が述べるように、賃金センサス(平均収入)よりも高い給与を得ていたという点も消極認定の理由として触れられています。
裁判所が「給与収入によって生計を立てている」と認定されるということは、そちらの仕事が既に一人前の労働として評価されているということであるので、前述した一般的な考え方と一致する考え方です。
ただ、「収入減少として勘案することは妥当ではな」いとしているのみですので、これは、慰謝料等で斟酌される可能性を排除するものではないと考えます 。
兼業主婦の休業損害が認められた事例①(神戸地判平成21年12月21日)
では、次に休業損害が認定された裁判例について見ていきましょう。
正社員の兼業主婦です。事故後も休まず勤務して減給を免れていました。
「前記認定事実等によれば、①原告は、本件事故当時、38歳であり、主婦として家事を行うとともに(本件事故当時満6歳の子と二人暮らしであり、子を養育している。)、会社勤務をして稼働していたこと、②原告は、本件事故により、前記認定の傷害を負い、通院を継続していたが、平成17年11月から正社員として勤務していたJ株式会社に体調不良をおして出勤し、本件事故後も事故前と同様の給与収入を得て休業を免れていたこと、③同勤務については、正社員として勤務してから間もない時期であり、休むと職を失う可能性もあったことから、努力して継続していたこと、④原告の通院中は原告宅の近所に居住していた原告の母が家事を行うなどしていたことなどが認められる。
以上の事実に前記受傷内容や通院経過・治療内容などを勘案すれば、原告はその努力によって会社勤務について休業を免れたものの、少なくとも家事労働に支障を生じたことによる損害が生じたものというべきである。
そして、その損害額は、平成18年の賃金センサス・女性労働者・産業計・企業規模計・学歴計の平均年収343万2500円を基準として算出することとするが、前記の会社勤務による就労状況など考慮して上記年収からこれを一定程度減算するなどしたものを基礎収入とすることが相当である。その上で、原告の受傷内容や通院経過、後遺障害の内容程度を考慮すれば、家事労働については、本件事故日から症状固定日である平成19年3月2日までの間(343日間)、一定割合の労働能力を喪失していたと評価することができることからこれにより、原告の休業損害を求めることとすると、原告の休業損害は、前記基準となる収入(年収343万2500円)により算出した休業損害の1割とするのが相当であって、次の計算式のとおり、合計額32万2560円となる。
343万2500円×343日÷365日×0.1=32万2560円」
本裁判例は、減収のない兼業主婦の休業損害を認めた貴重な事例ですが、その立場・論理構成は不明です。
つまり、他の裁判例とどのような点が異なっていたため、休業損害が認定されたのか不明です。
もしかすると、原告はシングルマザーであり子供も幼かったことから、家事労働と他の労働を合わせて一人前の労働と評価すべきではない「特別の事情」が認められた、ということになるのかもしれません。
兼業主婦の休業損害が認められた事例②(福岡高判平成28年1月28日L07120695)
次に紹介する裁判例は、正社員の兼業主婦で、事故後は有給を1日取得したのみで、特に減収はなかったというケースです。病院の教授の個人秘書を勤めながら、夫、小学6年生及び同4年生の息子と同居し家事労働を担う兼業主婦でした。
「1審原告は、本件事故当時、在籍する眼科病院から□□病院に派遣されて、眼科の教授の個人秘書として勤務する傍ら、夫及び小学6年生と同4年生の息子2人と同居して家事全般を担う兼業主婦であったところ、この基本的な生活状況には現在も変化はない。上記勤務による1審原告の平成22年度の給与収入額は284万8000円であり、この給与収入額についても事故前と事故後とで特に変動は生じていない。
しかし、1審原告は、本件事故直後には全身的な痛みのため家ではほぼ寝ていることしかできない状態にあったもので、事故後2、3週間が経過して全身の痛みが少し改善してからも、左足の負傷のため歩行や左膝の屈伸に支障が生じ、家事全般について家族に手助けをしてもらわざるを得ない状況にあった。この状況はその後徐々に改善していったが、1審原告としては、A医師から症状固定と言われた時点でも、家事は事故前と比較して半分程度しかできていなかったと感じている。
一方、上記個人秘書業の関係では、当該教授が個人病院を経営していた平成4年頃から、半ば私的な面を含めその仕事に係る情報等を一手に把握して用務を担っていたところ、代替する者がいなかったため欠勤すると教授の仕事にも支障が生じて迷惑が掛かり、また、子どもの急病等のときに備えて有給休暇を残しておきたいと考えたことなどから上記のような身体状況にありながらも、本件事故の翌日に有給休暇を1日とったほかは、通勤方法をそれまでの主に公共交通機関の利用から足は右足の操作のみで運転できるオートマチックの自家用車の使用に代えて欠勤せずに業務に従事した。しかし、仕事の効率は顕著に低下し、無報酬での残業や休日出勤をするなどして効率が低下した分を補うような状況となって現在に至っている。
上記2で認定した事実に照らすと、1審原告は、家事労働のほか賃金労働に従事する兼業主婦であるところ、①本件事故当日から平成21年1月末日までの52日間は40%,②同年2月1日から症状個定日である平成22年1月26日までの360日間は20%,それぞれ労働能力を喪失していたものと認めるのが相当である。そこで、平成20年賃金センサスによる女子労働者・学歴計の年間収入額である349万9900円を基礎収入として、上記各期間の休業損害を算定すると、合計で88万9837円となる(1円未満切捨て。以下同じ。)。
(計算式)
① 349万9900円÷365日×52日×0.4≒19万9446円
② 349万9900円÷365日×360日×0.2≒69万0391円
1審被告会社は、勤務先を休んだのが1日のみで減収がないこと及び家事労働時間は相対的に少ないことなどを指摘するが、1審原告が身体の不調にかかわらず無理をして出勤を継続し、無給の時間外労働及び休日出勤をして仕事の効率低下を補ったことは前記認定のとおりであるから、賃金労働及び家事労働を通じ全体として上記認定のとおり労働能力を喪失したものと認めるのが相当である。」
本裁判例は、減収のない兼業主婦の休業損害について、賃金労働及び家事労働を通じ全体として休業損害を認めたものといえます。
ただし、この原告は後遺障害等級12級が認定されていますので、この点も考慮された可能性が高いと考えます。
つまり、後遺障害等級12級ということは、労働能力の喪失があったことは明らかで、ただ、本人の努力等によって、それが減収や有給取得という形で顕在化しなかっただけとも言いやすいと考えます。
兼業主婦の休業損害が認められた事例③(さいたま地判平成30年4月24日)
次に紹介する裁判例は、大学職員の正社員の兼業主婦に関するものです。
①原告は,本件事故当時,大学職員として,主に事務仕事に従事して稼働しており,前年となる平成22年の収入は484万8800円であったこと(甲10),②他方,原告は,稼働の傍ら,当時小学生及び高校生であった子ら2人と同居して,原告ら家族の家事を全面的に担っていたこと(なお,原告の夫は,単身赴任をしていた。),③原告は,本件事故後,家事に支障を生じて,親族から家事の一部についての援助を受けたほか,稀にではあるものの,家事代行業者を依頼するなどもしていたこと,④原告は,職場の「チーム長」の立場にあり,例年3月~4月頃は煩忙期に当たることや,東日本大震災への対応を要したことなどもあって,平成23年4月~6月には欠勤しなかったが,その後,時期は不明であるものの,平成25年3月31日までの間に,年次有給休暇を全日31日,半日41日取得したこと(甲10),⑤原告は,本件事故後,職場において,会話や電話の着信音の聞き逃しをたびたび指摘されるようになり,翌年度にはチーム長から降格となったこと,⑥原告は,平成25年8月頃,補聴器を代金46万円(消費税を除く)で購入して,その使用を継続しており,現在も難聴及びこれに伴う左右耳鳴に格別な軽快はみられていないこと(甲8,12)が認められる。
そこで,まず休業損害についてみるに,原告は,有職の兼業主婦であったところ,その取得した有給休暇の具体的な時期は不明であって,休業の必要性等を直ちには判断し難く,他方,家事労働に支障が生じたことは明らかであるから,以上を踏まえ,その基礎収入を本件事故の前年の収入である484万8800円と認め,労働能力喪失率については,原告の後遺障害等級のほか,症状の推移や頚部痛等に係る相当因果関係のある治療期間等も考慮して,これを平成23年6月12日までの2か月間は60%,その後の同年9月12日までの3か月間は30%,その後の平成24年3月12日までの6か月間は15%,その後の症状固定となる平成24年11月8日までの約8か月間は約10%を相当と認める。これによれば,原告の休業損害は153万5453円となる。
今回の被害者の方は、有給休暇を多く取得していたので、家事従事者としてか、会社員としてかはともかくとして、休業損害自体は認められやすかったといえます。また、後遺障害14級が認定されています。
検討
正社員・フルタイムの兼業主婦であったとしても必ず主婦としての休業損害が否定されるわけではありません。
そして、あくまで私見となりますが、上記裁判例や他の裁判例の傾向をみると、①休業があったか否か、②休業がなかったとしてその理由(本人の努力の有無など)、③症状の程度(後遺障害の有無など)、④年収の額、⑤事故前後の家事負担の内容などの事情が考慮要素とされていると整理しました。
当事務所の解決事例については以下のとおりですので参考にしてみてください。
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