高速道路で前の車が急ブレーキを掛けてきたので追突してしまった。
高速道路で急に車線変更してきた車に追突してしまった。
自分に過失があるのは納得がいかない。
この記事は、このような方のために書きました。
こんにちは。弁護士の山形です。今回は、高速道路での車線変更・急ブレーキによる追突事故に関する過失割合について、裁判例を解説しています。
裁判所がどのような事情に着目して過失割合を決めているのか分析していますので、ぜひ参考にしてみてください。
目次
高速道路で急な車線変更をした車の100%過失を認定した裁判例
大阪地裁・平成24年3月23日判決
被告は,走行車線から追越車線に車線変更するに際し,追越車線を後方から進行してくる車両の速度または方向を急に変更させることとなるおそれがあるときは,進路を変更してはならない注意義務を負っていたが(道路交通法28条の2第1項参照),これに反して車線変更をした過失があるといえる。加えて,上記車線変更は高速道路上で双方の車両が高速で走行している際にされたこと,被告が右ウィンカーを点滅させるのと同時くらいに車線変更をしたこと,その時点で原告車が被告のすぐ右後ろに迫っていたことなども考慮すれば,被告の過失は大きかったというべきである。
他方,原告は,追越車線を通常どおり走行し,被告トラックのすぐ右後ろまで来たところに,被告トラックが急な車線変更してきたため,これを避けきれなかったものであって,過失があったとは解されない。
よって,本件事故は専ら被告の過失により生じたものといえる。
高速道路で追越車線に車線変更をしてきた大型車に追越車線を走行していた車が衝突してしまったという事故に関する裁判例です。
車線変更をした被告は、「前車を追い越すため車線変更をするに際し,右サイドミラーで原告車を視認し,十分な車間距離があることを確認して,右ウィンカーを点滅させ,車線変更をしたが,速度違反をして走行してきた原告車と接触した。原告には前方不注視,速度違反及び二重追越しの過失がある。」として、原告の50%の過失を主張していました。
しかし、裁判所は、「原告は,追越車線を通常どおり走行し,被告トラックのすぐ右後ろまで来たところに,被告トラックが急な車線変更してきたため,これを避けきれなかった」として、追越車線を走行したいた原告の過失を否定しました。
判決文からは、裁判所が以下のような事情を重視して、車線変更車の100%過失を認定していることが読み取れます。
- 高速道路上で双方の車両が高速で走行している際に車線変更がされたこと(高速道路という場所の特殊性)
- 被告が右ウィンカーを点滅させるのと同時くらいに車線変更をしたこと(ウインカーのタイミング)
- 車線変更の時点で原告車が被告車のすぐ右後ろに迫っていたこと(後続車との距離)
高速道路で車線変更した車両に追突してしまった、車線変更したら追突されてしまったとい場合には、上記のような要素に着目して過失割合を検討すると良いでしょう。
高速道路で車線変更をした車に90%、追突車に10%の過失を認定した裁判例
東京地裁・平成15年5月29日判決
被控訴人は,Y車両を運転して走行車線から追越車線に進路を変更するに際し,右後方の追越車線を走行していたX車両の動静を注視し,その安全を確認すべき注意義務があったにもかかわらず,右後方の確認を怠り,漫然と追越車線に進路を変更した過失があり,これが本件事故発生の主たる原因であると判断される(なお,本件においては,追越車線の流れが通常の流れよりは遅いものであったと考えられるが,それでも走行車線より流れがやや速かったのは,前記のとおりである。)。
一方において,控訴人としても,Y車両の動静を注視して,危険があれば直ちに対処できるように運転すべき注意義務があるところ,前記のとおり,Y車両が車線変更を完了していたことからすれば,自車を減速させ,Y車両との衝突を避けるだけの時間的余裕があったものと考えられるから,控訴人にも,Y車両の動静に対する注視を怠り,自車の減速を遅らせた点に過失があるものといわざるを得ない。
・・・以上の事情のほか,本件事故現場の状況,本件事故当時の両車両の速度,衝突地点等を考慮すると,双方の過失割合は,控訴人10:被控訴人90と認めるのが相当である。
先ほどと同じように後続車が車線変更車に衝突したという事故に関する裁判例です。
控訴人が後続車(X車)、被控訴人が進路変更車(Y車両)です。
裁判所は、後続車についても、車線変更車の動静に対する注視を怠り、自車の減速を遅らせた点に過失があったとして、10%の過失を認定しました。
裁判所は、追突した後続車の過失(10%)を認定した理由について、以下のような事情を挙げています。
- 車線変更車の減速はエンジンブレーキによるものであり、エンジンブレーキによって著しく減速するとは考え難い
- 車線変更車が、車線変更完了後、ルームミラーで後方を確認するだけの時間的余裕があったこと
これらの事情から、車線変更完了から本件事故発生までにはある程度の時間的な間隔があったとしたうえで、控訴人(後続車)は、車線変更車がエンジンブレーキによって減速していることに暫くの間気付かなかった、と結論づけています。
車線変更後、衝突までにどれだけの時間があったか(回避する時間があったか)という事情も過失割合を判断するうえで重要な要素となります。
高速道路で車線変更後に急ブレーキをかけた車に80%、追突した車に20%の過失を認定した裁判例
東京地裁・平成28年10月11日判決
被告は、被告車を運転するに当たり、同一車線上の後方を走行する車両の有無及び安全を確認し、後続車の速度や方向を急に変更させることのないよう適切な車間距離や速度で進行すべき注意義務があるのにこれを怠り、法定最低速度を下回る速度まで急減速して走行したのであるから重大な過失がある。
・・・原告にも前方注視義務を怠った過失がある・・・双方の過失の内容及び程度等を考慮すれば、被告と原告の過失割合は8対2と認めるのが相当である。
深夜、高速道路第2車線を走行中の被告運転のタクシーが、道を間違え第1車線に車線変更し、急ブレーキを踏んで減速した(時速80㎞から時速30㎞に減速)ところに後行の原告運転の大型貨物が追突したという事案です。
追突してしまった原告は、本件事故を回避することはできなかったのだから、原告に過失はないと主張していましたが、裁判所は、「被告車の減速を認識して原告車を減速させたり、第2車線に進路変更をするなどして衝突を回避することが全くできなかったとはいえない」として、原告にも2割の過失を認めました。
速度超過+ノーブレーキで追突した後続車に100%の過失を認定した裁判例
大阪地裁・平成28年9月27日判決
被告Y1は,前方を注視して進行する注意義務があったのに,これを怠り,前方を走行中の車両はないと思い込み,前方を十分注視しないまま走行したことにより,被告車両前部を原告車両後部に衝突させたものであるから,本件事故について過失がある。
・・・原告は,原告車両を時速約50キロメートルないし60キロメートルで走行させていたものの,最低速度を下回っていたとはいえないから,この点をもって,原告の損害について過失相殺をすべき事情とは認められない。そして,他に過失相殺をすべき事情も認められないから,被告らの過失相殺の主張は理由がない。
夜間、雨が降っている中での高速道路を原告の普通貨物車が走行していたところ、後ろから走行してきた被告大型貨物車に追突されたという事故です。
裁判所は、「被告は、原告車両を発見してからも、路面が濡れていたことからスリップをおそれてブレーキをかけておらず、時速約90キロメートルで走行していた」と認定し、一方で、前を走行していた原告については、「時速約50キロメートルないし60キロメートルで走行させていたものの、最低速度を下回っていたとはいえない」として、被告の100%過失を認定しました。
前を走行していた原告車の速度が最低速度を下回っていた場合には、また異なる結論になった可能性もありますが、この事案では、純粋に後続車の前方不注視として、被告の100%過失となっています。
トンネル内で不必要にブレーキを掛けて減速した車に40%の過失を認定した裁判例
大阪地裁・令和2年5月28日判決
原告には,高速道路である紀勢自動車道上の本件トンネル内において,後続車である被告車の存在を認識していたにもかかわらず,交通の状況やどの程度原告車を減速させるかといったことについて何ら留意することなく,漫然と原告車を減速させたことが認められる。・・・そうすると,原告車の減速は,原告のブレーキの不必要又は不確実な操作によってもたらされたものというべきであるから,本件事故については原告の側にも相応の過失があるといわざるを得ない。
・・・本件事故の態様は,被告車の原告車に対する追突事故であるものの,高速道路上のトンネル内での交通事故であること,当事者双方の過失の内容,特に,本件事故は,被告の前方注視義務違反及び車間保持義務違反のみならず,原告のブレーキの不必要又は不確実な操作による原告車の減速も相俟って発生したものであること,その他諸般の事情を総合的に考慮すると,本件事故についての過失割合は,原告側が4割,被告側が6割であるとするのが相当である。
トンネル内で原告車が減速し、後ろを走行していた被告車が追突してしまったという事故です。
双方の言い分は激しく対立しています。
原告は、被告車が必要以上に車間距離を詰めていたなどとして100%被告の過失を主張し、一方、被告は、原告車が嫌がらせのために故意に急ブレーキを掛けて原告車を急停止しさせたとして、原告の100%過失を主張していました。
結局、裁判所は、いずれの主張についてもドライブレコーダー等の客観的証拠がない以上、採用することができないとしたうえで、「高速道路上のトンネル内での交通事故であること,当事者双方の過失の内容,特に,本件事故は,被告の前方注視義務違反及び車間保持義務違反のみならず,原告のブレーキの不必要又は不確実な操作による原告車の減速も相俟って発生したものである」などの事情から、追突された原告にも4割の過失があると認定しました。
事故状況の証明については、やはりドライブレコーダーのような映像という客観的証拠が重要となります。
高速道路の事故の過失割合に関する無料相談
いかがでしたか。
今回は、高速道路での車線変更・追突事故の裁判例について解説しました。
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