駐車場で後退してきた車にぶつけられた。
こちらは停止していたのに、保険会社から過失があると主張されている。
駐車場の事故で過失割合が10対0になった裁判例を知りたい。

この記事はこのようなことでお悩みの方のために書きました。

こんにちは、弁護士の山形と申します。

今回は、駐車場内の事故で、後退車が停止中の車に衝突したケースの裁判例について解説していますので、ぜひ参考にしてみてください。

静岡城南法律事務所

山形祐生(やまがたゆうき)

静岡県弁護士会所属 登録番号:44537

静岡県交通事故相談所の顧問弁護士(静岡県知事の委嘱による)。
日本交通法学会に所属し、交通事故に関する最新の裁判例等の研究をしている。静岡県外からの相談・依頼も多く、一人で年間120件以上の交通事故案件を手掛けている。慰謝料、後遺障害、過失割合に関する交渉・裁判を得意とする。

目次

コンビニの駐車スペースに駐車した直後の停止車に加害者の車が後退衝突した事故

佐世保簡易裁判所・平成22年3月23日判決(自保ジャーナル第1830号)

 上記ア及びイからすると,Bの運転するB車両がウ点で停車している間は,E車両は,後退のための動作を開始しておらず,D点で停車したままの状態であったと認められる。
 そうすると,本件駐車場が常時不特定の車両が出入りする駐車場であること,本件事故当時における本件駐車場の駐車区画のほとんどが空いた状況であった(B本人尋問)ことからすると,Bには,ウ点で,D点でのE車両を確認した際,E車両がどの駐車区画に駐車するのか,すなわち,Bが駐車しようとしていた駐車区画にE車両も競合して後退しようとしていたことを予見することは不可能であったというべきである。
 さらに,Bは,「私が駐車区画に車を止め,ギアをパーキングの位置に入れ,右サイドミラーを見ると,こちらに向かってくる車が見えたので,クラクションを3回ならしました。」(B本人尋問)と述べているとおり,E車両との衝突を回避するための措置をとったことが認められる。
・・・以上によれば,Bには,E車両の進行を妨げた過失があるとは認められず,本件事故の責任はEにあると認めるのが相当である。

コンビニの駐車場での事故です。

Eは、Bよりも先に駐車場敷地内に入って、駐車区画の外で停車していました。
その後、Bが駐車場敷地内に入って、E車が停車したままの状態であったのを確認してから、駐車区画に駐車しました。
すると、Eが同じ駐車区画に後退して進入しようとして、B車と衝突したという事案です。

Eは、「本県駐車場に先に進入したのは、Eであり、空いていた駐車区画に向かって後退しようとしていたのであるから・・・Eが優先する」と主張していました。

しかし、裁判所は、「本件駐車場が常時不特定の車両が出入りする駐車場であること,本件事故当時における本件駐車場の駐車区画のほとんどが空いた状況であったことからすると,Bには,ウ点で,D点でのE車両を確認した際,E車両がどの駐車区画に駐車するのか,すなわち,Bが駐車しようとしていた駐車区画にE車両も競合して後退しようとしていたことを予見することは不可能であった」とし、また、Bがクラクションを鳴らしていることなどの事情からBの過失を否定し、E:Bの過失割合について10:0と判断しました。

Bが駐車場敷地に入ってE車両を確認した時点でEが同じ駐車区画に後退してくることを予見可能であったか否か争点となっていました。
そして、BがE車両を確認した時点でE車両が後退するための動作を開始していたか否かという点について、裁判所は、「BがバックしてくるE車両に最初に気づいてから衝突するまでの時間をせいぜい約2,3秒だとしても,Bについて,その前に,ブレーキを踏んで,ギアをパーキングに入れるのに要した時間,エ点の車止めブロックに接しないよう注意しながら停車するのに要した時間,さらに,ウ点からエ点まで移動するのに要した時間を合計すると,BがD点に止まっていた時点では,少なくとも,E車両は,後退するための動作を開始していなかったことになる。」と、各動作に要する時間を検討して、時系列を遡って事実認定している点が参考になります。

もし、BがE車両を確認した時点でE車両が後退動作を開始していた(後退ランプが点いていた)場合には、仮に、先にBが駐車区画に駐車したとしても、異なる結論になった可能性があるでしょう。

コンビニの駐車場内で後退車両の近くに停車した車両に後退車両が衝突した事故

広島地裁・平成26年2月13日判決・自保ジャーナル1920号

 本件事故に至る経緯は,被告が被告車両に乗り込んで後進しようと準備している最中に,原告車両が被告車両の後方に停車し,左斜め方向の南面駐車枠の駐車車両が出ていく様子を注視して被告車両の様子に余り注意していなかったところ,被告においても,ギアをリバースに入れて被告車両を後進させるに当たり,人が出入りする本件店舗建物側である左後方を主に注視して右後方の注視が疎かになったため,直後に停車している原告車両の存在に気付くのが遅れて衝突に至ったものと認められる。
 したがって,本件事故の発生については,車両を後進させるに当たり後方の注視義務を怠った被告に過失があることは明らかである。
 他方,Aにしてみても,本件駐車場はコンビニエンスストアの駐車場であり,駐車車両は短時間のうちに出ていくことが容易に予想できるから,被告車両の後方に停車するに当たっては,被告車両がいつ何時後進を開始するか分からない状態にあることは予見できたことといえ,そうであるのに,余りにその後方近くに停車させたという点で問題があり,不用意な停車方法であったといえる。しかし,上記認定のとおり,本件事故は停車中の原告車両に被告車両が後進しながら衝突したというものであり,また被告が進行方向への注視義務を普通に果たしていれば,起き得なかった事故であることは明らかであるから,本件事故について,A,ひいては原告らに斟酌すべき過失があるとはいえないというべきである。

本件もコンビニの駐車場内での事故です。

駐車中のトラック(被告)が後退して、その後ろにいたA車両に衝突したという事故です。

本件では、まず、①被告車両の後進途中に原告車両が進行してきて衝突したのか、それとも②A車両が停車していたのかが争点となりました。

この点について、裁判所は、「まず原告車両には,運転手のAだけではなく,原告らも同乗しており,しかも原告車両からすると,被告車両の駐車している様子を含む前方の視界を妨げるものはなかったのであるから,原告車両の乗員であるA及び原告らは,被告車両の様子が視界内にあったはずであることが指摘できる。そうすると,A及び原告らの注意が,いくら南面駐車場の空き状況の確認に向けられていたとしても,原告車両が被告車両の後方に停車するまでの間に被告車両の後進開始を意味するバックランプが点灯したら,そのことをAあるいは原告らの誰かは気付くはずであって,そうすれば本件事故に至ることはないはずであり,逆に,そのことは,原告車両停車時までに,少なくとも被告車両のバックランプは点灯していなかったことを示しているものと考えられる。」などとして、Aや被告の供述(省略)から、A車両は停車していたと認定しました。

そして、A車両が停車していたとしても、被告車両のすぐ後ろの位置で停車していたという点について、Aの過失があるのではないかという点も争点となりましたが、この点について、裁判所は、「不用意な停車方法であったといえる。しかし,上記認定のとおり,本件事故は停車中の原告車両に被告車両が後進しながら衝突したというものであり,また被告が進行方向への注視義務を普通に果たしていれば,起き得なかった事故であることは明らかであるから,本件事故について,A,ひいては原告らに斟酌すべき過失があるとはいえない」として、Aの過失を否定しました。

この裁判例では、Aの過失が否定されましたが、停車した位置によっては、相手方の進行を妨げたとして過失が肯定されることもありますので、注意が必要です。

コンビニの駐車場内で停車中の車に後退車が衝突した事故

松山地裁今治支部・平成28年11月8日判決・自保ジャーナル1922号

 被告らは,原告車にも安全運転義務違反があるとして過失相殺を主張する。しかし,前記前提となる事実(1),(2)及び前記認定事実によれば,原告車は,本件事故当時,被告車の後方約7.8mの地点に停車していたものであり,原告車の停車位置に駐車区画がなく,通路としての使用が予定されていたと考えられることを考慮しても,その停車態様自体が不適切であったということはできない。そして,被告車の発進から原告車との衝突までに比較的間がないと考えられること(被告車が通常の後退速度である時速5~10km程度であったとしても,前記距離を走行する時間はわずかである。),衝突部位が被告車の後部と原告車の右側面部であり,衝突角度が原告車正面に対して4時の方向であったことを考慮すると,原告車において被告車の衝突を回避すべき注意義務があったとまでは認め難く,その他原告車に過失相殺をすべき事情も認め難い。したがって,被告らの前記主張は,採用することができない。

原告は「原告は,原告車を運転して今治街道を東方向から西方向に向かって進行し,本件駐車場に西側入口から進入し,大きく左に旋回して・・・停止した。原告は,同地点で停止する前に,被告車を見たところ,バックランプも点灯せず,動く様子もなかった。ところが,原告車が停止してから5,6秒後,被告車は,バックランプを点灯させて,原告車の右後方地点から原告車に向かって後退を開始した。原告車は,被告車が停止する様子なく原告車に向かってきたことから,クラクションを連続して叩くように約2,3秒間鳴らして注意を促した。しかし,被告車は,後退を止めず,停車中の原告車に衝突した。」と詳細な時系列を主張していました。

しかし、裁判所は、「前掲各証拠を精査しても,原告車の停車から被告車の衝突までの時間を秒単位で認定することは困難であるし,クラクションの吹鳴についても原告と被告Y1の供述は食い違っており,原告の供述を裏付ける的確な証拠も見当たらない以上,これを認定することは困難である。」として、原告車が停車していたとまでは認定しませんでした。

そのうえで、「被告車の発進から原告車との衝突までに比較的間がないと考えられること(被告車が通常の後退速度である時速5~10km程度であったとしても,前記距離を走行する時間はわずかである。),衝突部位が被告車の後部と原告車の右側面部であり,衝突角度が原告車正面に対して4時の方向であったことを考慮すると,原告車において被告車の衝突を回避すべき注意義務があったとまでは認め難く,その他原告車に過失相殺をすべき事情も認め難い。」として、原告と被告の過失割合について0:10と判断しました。

この裁判例から言えることは
①加害車両の発進から衝突までの時間が少ない、
②衝突角度(被害者側から確認不可能であったり、確認が困難な方向からの衝突)
といった事情から、停止していなかったとしても、過失が0になることがあるということです。

保険会社は、「停止していないと10:0にはならない」と主張してくることがありますが、本件のように、停止していなくても10:0になることがありますので、参考にしてみてください。

 

駐車駐車場事故の過失割合が10:0になったケースについては、以下の記事も参考にしてみてください。

停止していたことを証明する方法

中には、ドライブレコーダーの映像等がなく、そもそも停止していたか否かが争いになるケースも多くあります。
そのようねケースにおいて、車の傷跡から停止していたことを証明できる場合もありますので、以下の記事を参考にしてみてください。

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何卒ご理解賜りますようお願い申し上げます。

静岡城南法律事務所

山形祐生(やまがたゆうき)

静岡県弁護士会所属 登録番号:44537

静岡県交通事故相談所の顧問弁護士(静岡県知事の委嘱による)。
日本交通法学会に所属し、交通事故に関する最新の裁判例等の研究をしている。静岡県外からの相談・依頼も多く、一人で年間120件以上の交通事故案件を手掛けている。慰謝料、後遺障害、過失割合に関する交渉・裁判を得意とする。

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