保険会社が提示してきた慰謝料が少ない気がする。
仕事や家庭の都合で十分な通院ができなかった。
実通院日数が少ない場合、慰謝料をいくらもらえるのか知りたい。

 

この記事はこのような状況でお困りの方のために書きました。

 

こんにちは。静岡の弁護士の山形です。

今回は、実通院日数が少ない場合の慰謝料に関する裁判例について紹介しています。
慰謝料の計算方法など基本的な内容については、以下の記事を参考にしてみてください。

目次

実通院日数が少ない場合の慰謝料の考え方

交通事故の通院慰謝料の金額について、裁判や交渉などでは、「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準」(通称:赤い本)に掲載された基準が1つの目安になります。

赤い本は、毎年、内容が更新されるのですが、平成28年版から通院慰謝料の算定基準に関する記載が改定されました。

改定前は、「むち打ち症で他覚症状がない場合は、別表Ⅱを使用する。この場合、慰謝料算定のための通院期間は、その期間を限度として、実治療日数の3倍程度を目安とする。」とされていました。

例えば、通院期間が180日間のうち実際に通院した日数が10日だった場合、30日(10日×3)を基準に慰謝料が算定されていました。別表Ⅱを前提に180日で計算すれば通院慰謝料は89万円となりますが、30日で計算すると通院慰謝料は19万円となってしまいます。

しかし、実際には、症状の内容・程度よりも、仕事や家庭の事情などから、頻繁に通院することができないというケースが多くあり、「通院期間が短期の場合には、別表Ⅱの基準よりかなり高い金額が認定されている傾向が認められ、むち打ち症に関して『実通院日数の3倍を通院期間とする』基準は裁判の実態を反映していない」との指摘がされていました(平成28版赤い本下巻「慰謝料基準改定に関する慰謝料検討PT報告」)。

その結果、平成28年版の赤い本から慰謝料の基準が改定され、「むち打ち症で他覚所見がない場合等は、入通院期間を基礎として別表Ⅱを使用する。通院が長期にわたる場合は、症状、治療内容、通院頻度をふまえ実通院日数の3倍程度を慰謝料算定のための通院期間の目安とすることもある」となりました。

つまり、原則は通院期間を基礎とし、通院が長期にわたる場合に限って諸事情から実通院日数の3倍程度を目安とすることもあるに過ぎないことが明記されました。

保険会社は、今でも、通院頻度が少ないケースで上記改定前の基準を持ち出して、示談案を提示してくることがありますので注意してください。

実通院日数が少ない場合の慰謝料に関する判例の紹介

それでは、ここからは、実通院日数が少なかったケースで慰謝料がどのように認定されたのか、結局いくらもらえたのか、実際の裁判例を紹介していきたいと思います。

総通院期間に比べて実通院日数が少なく、かつ被害者の症状について他覚所見が認定されていない(むち打ち症など)事案について、令和以降の判例をいくつか取り上げてみましたので参考にしてみてください。

水戸地裁・令和元年11月15日判決(自保ジャーナル第2065号)

 控訴人は本件事故により頸部・腰部・右手痛を訴え平成29年5月8日から同年7月24日までの間に5日通院したこと,上記各主訴については画像所見などの他覚的な所見がないこと,以上の各事実が認められる。
 以上のような傷害の内容・程度,通院の期間・頻度,特に実通院日数を考慮すると,上記傷害についての慰謝料は9万5000円とするのが相当である。

総通院日数80日、実通院日数5日という事案です(約6%)。

慰謝料について、控訴人は、総通院日数(80日間)を基礎として計算し、47万3333円を請求していました。

しかし、裁判所は、「傷害の内容・程度,通院の期間・頻度,特に実通院日数」を考慮して、9万5000円の慰謝料しか認めませんでした。
この9万5000円というのは、実通院日数(5日)の3倍を基礎として計算した場合の慰謝料額です。
裁判所がわざわざ「特に実通院日数」を考慮したと判決に明記している点が注目されます。

赤い本の基準は、被害者に有利に改定されたのですが、それでも実通院日数は重要な考慮要素となるといえそうです。

東京地裁・令和2年9月29日判決

 控訴人は,Bの医師の指示に従い,同年8月10日から同年10月17日までの間,C整骨院に通院した(同年8月10日,同月16日,同月22日,同月31日,同年9月12日,同月26日及び同年10月17日の実通院日数7日)。
 上記認定事実における控訴人の通院は,C整骨院への通院も含めて本件事故と相当因果関係のある通院と認められる。その上で,上記認定事実における控訴人の傷害の内容,治療期間,通院日数,通院の間隔が不規則であることなど本件証拠上顕れた全事情を総合すると,通院慰謝料は36万円と認めるのが相当である。
 ・・・治療期間に比して実通院日数が殊更寡少であるとはいえず,控訴人の傷害の内容及び治療期間なども考慮するのが相当であり,実通院日数のみを基準として通院慰謝料を算定することは相当でない。他方,医師であり多忙であったなどの控訴人の供述を踏まえても,A病院を受診してから同年8月9日にBを受診するまで約1か月間通院間隔が空いていることなど,通院の間隔も不規則であることを考慮すると,総治療期間のみを基準として通院慰謝料を算定することも相当ではなく,上記判断を左右するものではない。

総通院期間104日、実通院日数11日という事案です(約10%)。

慰謝料について、控訴人は、総通院日数(80日)を基礎として計算し、59万5333円を請求していました。
一方、被控訴人は、実通院日数の3倍を基礎として計算し、慰謝料は20万7000円に過ぎないと反論していました。

裁判所は、どちらの主張も認めず、36万円の通院慰謝料を認定しました。
この金額は、通院日数60日を基礎として赤い本の基準で計算した場合の金額と同じです。

大阪地裁・令和元年5月23日判決

 原告は,本件事故により,頚椎捻挫,胸部打撲傷,後背部痛の傷害を負い,本件事故の日である平成29年6月13日から症状固定日である同年10月23日までの間,通院した事実,実通院日数は10日であるとの事実が認められる。このような原告の症状,通院の状況等に照らせば,慰謝料は20万円をもって相当と認める。

総通院期間133日、実通院日数10日という事案です(約7%)。

慰謝料について、原告は30万を請求していました。

裁判所は、「原告の症状、通院の状況等」から慰謝料を20万円と認定しました。

判決文からは、原告が請求していた慰謝料の計算根拠は不明ですが、総通院期間を基礎として赤い本基準で計算すると、72万2000円です。
原告の請求額等からすると、原告の症状は軽いものだったのかもしれません。

大阪地裁・令和元年9月12日判決

 実通院日数は12日であり,上記アの証拠により認められる通院状況からして,12日の3.5倍である42日を基礎とし,上記(1)で認定した傷害の内容を勘案すると,傷害慰謝料は25万円をもって相当と認める。
※原告は2名いますが、1名に関する部分についてのみ引用しています。

総通院期間238日、実通院日数12日という事案です(約5%)

慰謝料について、原告は、40万4000円を請求していました。

裁判所は、実通院日数(12日)の3.5倍を基礎として計算し、25万円(※)の慰謝料を認定しました。
※千円以下を切り捨て計算したものと思われます。

赤い本基準では、「実通院日数の3倍程度」とされていますが、この判例のように「3.5倍」を基礎として計算されることもあります。

東京地裁・令和2年7月22日判決

 反訴原告の負った傷害の内容及び程度,治療経過等一切の事情に鑑みれば,上記の額(※80万円)を認めるのが相当である。

総通院期間367日、実通院日数39日という事案です(約10%)。

慰謝料について、反訴原告は、総通院日数(367日)を基礎として計算し、119万円を請求していました。

一方、反訴被告は、慰謝料は17万0999円に過ぎないと反論していました。判決文からは、明らかとなっていませんが、おそらく、反訴被告が主張する症状固定日(平成30年7月23日)までの実通院日数を基準に計算したものと思われます。

裁判所は、反訴原告の「傷害の内容及び程度,治療経過等一切の事情」から80万円の慰謝料を認定しました。
実通院日数で考えると約3.8倍を基礎として計算した金額です。

横浜地裁・令和元年12月16日判決

 本件傷害の内容が「腰部打撲」及び「左前腕擦過創」にとどまり、その程度も軽微であることや、本件事故による傷害に対する治療のためと認められる医療機関への通院がB病院への1回の通院に過ぎないことを踏まえると、慰謝料は3万円が相当である。

原告は、通院期間166日、実通院日数90日を主張し、105万5123円の通院慰謝料を請求していました。

しかし、裁判所は、事故態様や診断書の記載等から「原告の傷害の程度は軽微であったといえ、治療期間は2週間を超えない」としました。

そして、慰謝料算定の基礎として認められる通院は整形外科への通院1回のみであるとして、慰謝料として認めた金額は3万円でした。

慰謝料に関する無料相談

いかがでしたか?今回は、実通院日数が少ない場合の慰謝料に関する裁判例について紹介しました。
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Qケガはなく、物損(車の修理費用など)の過失割合だけが問題になっているのですが、相談・依頼することはできますか?
A

物損だけの事故についてもご相談・ご依頼いただくことは可能です。

Q小さな事故で、特に保険会社との間で揉めていないのですが、弁護士に相談しても良いですか?
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もちろん、問題ありません。
 弁護士に依頼することで、小さなケガであっても示談金額が増額される可能性がありますし、保険会社との対応を全てお任せできるというメリットがありますのでお気軽にご相談ください。

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 なお、弁護士費用特約をご利用の場合は、費用倒れになることはありません。

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Q日中は仕事で忙しいので、弁護士事務所に行ったり、電話をしたりすることが難しいのですが・・・
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Q裁判まではしたくないのですが、交渉で示談することは可能ですか?
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裁判まで行うか、交渉で示談をして終わらせるかは、依頼者の方が決めることになりますので、交渉での解説を希望される場合には、裁判にはなりません。なお、当事務所がこれまで扱ったケースでは、8割ほどが交渉で解決しています。

Q解決までには、どれくらいの時間が掛かりますか?
A

事案にもよりますが、交渉の場合、交渉開始から1ヶ月程度で示談して終わるケースが多いです。ただし、後遺障害の申請をしたり、過失割合に争いがあって実況見分調書等を取り寄せる場合には、プラス2、3月程度かかります。
また、裁判の場合は、早くても半年程度は掛かります。当事務所が過去に扱った裁判では、平均すると1年~2年で終わるケースが多いです。

Q弁護士に相談したら必ず依頼しなければいけないのでしょうか?
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もちろん、相談だけで依頼しなくても問題ありません。むしろ、複数の弁護士に会って相談したうえで、最も信頼できる弁護士に依頼することをお勧めします。

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