主婦は、どんな場合に休業損害を請求できるの?
主婦の休業損害はどうやって計算するの?
この記事は、そんな疑問をお持ちの方のために書きました。
こんにちは。弁護士の山形です。
この記事では、交通事故にあってしまった主婦の方のために、休業損害の計算方法や、どのような場合に主婦の休業損害が認められるのかという点について、裁判例を紹介しながら弁護士が解説しています。主婦の方は、ぜひ参考にしてみてください。
目次
交通事故にあった主婦も休業損害を請求できる
「休業損害」というのは、事故の影響で仕事を休んでしまったことによって発生した損害のことをいいます。
事故でケガをしてしまった場合に会社を休んだり、有給を使ったりした場合、その分の損害を保険会社に対して請求できるわけです。
そして、主婦も料理をしたり、洗濯をしたり、毎日大変なお仕事をしていますから、ケガの影響で家事の全部や一部が出来なかった場合には、休業損害が認められます。
主婦の休業損害の3つの基準と計算方法
休業損害の計算方法について、3つの基準があります。
1つ目は、自賠責基準です。これは、自賠責保険から休業損害が支払われる際に使われる計算方法です。
2つ目は、保険会社の基準です。これは、事故の相手方の保険会社が独自に使っている計算方法です。
3つ目は、裁判基準です。弁護士基準、赤本基準と言ったりもします。これは、裁判になったときや、弁護士が交渉のときに使う基準です。
この3つの基準の中で一番高くなるのが、裁判基準(弁護士基準)です。
そのため、弁護士は、保険会社に対して、裁判基準に基づいて、休業損害を請求していくことになります。
では、以下では、それぞれの基準での具体的な計算方法をみていきましょう。
自賠責の基準での計算方法
自賠責保険からの支払は、以下の計算式で求められます。
休業損害額=6100円×休業日数
※2020年3月31日以前に発生した事故については、1日あたり5700円で計算します。
休業日数については、原則として、通院した日数となります。つまり、通院した日は、家事が出来なかったと考えるわけです。
ただし、通院日数が多すぎる場合は制限されることもあります。
保険会社の基準での計算方法
保険会社の基準は、各会社によって異なります。
ただ、次に説明する裁判基準よりも低い額となることがほとんどですので、もし、あなたが休業損害を請求するのであれば、裁判基準に基づいて計算するようにしましょう。
裁判基準(弁護士基準)での計算方法
裁判基準では、原則として、主婦の方の基礎収入額を会社などで仕事をしている女性の平均収入額と同じように考えます。
「専業主婦の仕事内容をお金に換算すると女性の平均収入くらいはあるよね」と考えるわけです。
具体的な金額としては、事故にあった年の前年の仕事をしている女性の平均収入額で考えます。
例えば、令和元年の場合、会社などで仕事をしている女性の平均収入額は、388万円ですので、1日あたり1万0630円となります。
※兼業主婦の方で平均収入よりも多い収入を得ている場合には、実際の収入額を基準に計算することになります。
そして、1日あたりの収入額(約1万円)に、実際に家事ができなかった日数を掛けて休業損害を計算します。
ただ、実際には、全く家事が出来なかったという日が毎日続くわけではなく、徐々に、回復して出来る家事も増えるケースがほとんどです。
そこで、例えば、以下のように、段階的に計算することが多いです。
主婦の休業損害の計算 その1
【ケース】
事故にあった日から最初の1ヶ月間は100%、その後の3ヶ月間は50%、その後の2ヶ月間は25%、家事が出来なかった場合
1万0630円×100%×30日=31万8900円
1万0630円×50%×90日=47万8350円
1万0630円×25%×60日=15万9450円
合計=95万6700円
また、以下のように、通院した日を家事が出来なかった日と考えて計算することもあります。
ベースとなる金額は違いますが、自賠責と同じような考え方ですね。
主婦の休業損害の計算 その2
【ケース】
6ヶ月間通院し、通院日数が80日の場合
1万0630円×80日=85万0400円
上で紹介した計算方法は、あくまで一例に過ぎません。
主婦の方の休業損害については、様々な考え方がありますので、実際の家事への支障などを考えながら、有利な計算方法を主張してくことになります。
休業損害は、家事への支障に対する補償ですから、裁判でも交渉でも、具体的な支障の内容を主張・証明していくことが大切となります。
そのため、簡単なものでも良いので、「どんな作業ができなかった、大変だった」ということについて記録しておくと良いでしょう。
主婦の休業損害に関する裁判例
最後に、主婦の休業損害に関する裁判例を紹介します。
東京地判平成12年11月29日
一人暮らしの方について、家族のために家事を行っているわけではないため、原則として、主婦としての休業損害を請求することはできないと判断されました。
【コメント】
「生業主婦につき、夫と2人暮らしであり、事故で夫が死亡し、事故後は他人のために家事を行う状況ではなくなったところ、自分のためだけに家事を行う者に休業損害は認められないのが原則であるが、夫のために家事に従事しなければ、他で働いて収入を得る選択肢もあったと考えられ、夫を死亡させたのが加害者であることから、休業損害を認めないのは相当ではない」として休業損害を認めた裁判例(名古屋地判平成23年4月1日)もありますので、特別な事情があれば、一人暮らしの方であっても主婦としての休業損害が認められる場合があります。
横浜地裁平成30年11月2日
週3回程度、クリーニング工場でパートとして働いていた主婦(夫と成人した長女と3人暮らし)について、休業損害が認められました。
【コメント】
いわゆる兼業主婦(パート)についても、原則として休業損害が認められます。
名古屋地判平成20年5月21日
妻が正社員として働いて、専業主夫として洗濯、掃除、料理等の家事全般を行っていた男性の被害者について、主婦としての休業損害が認められました。
【コメント】
男性であっても主夫としての休業損害が認められます。
大阪高判平成16年9月17日
育児休業中に事故にあった会社員兼主婦について、休業損害が認められています。
職場復帰予定日に復帰できなかった場合に、育児休業中は賃金センサス女性学歴計(簡単に言うと、女性の平均収入です。)を基礎とし、復帰予定日から、会社に復帰した日までは、育児休業前の年収を基礎とし休業損害を算定しました。
【コメント】
この事案では、会社から育児休業中に給与が支払われていなかったという事情がありますので、会社から給与が支払われているケースでは、異なる結論になる可能性もあります。
まとめ
いかがでしたか?
今回は、主婦の休業損害について解説しました。
主婦の休業損害については、色々な考え方や裁判例があり、専門的な知識が必要となる問題です。
保険会社の説明を鵜呑みにせずに、一度、弁護士に相談してみることをオススメします。