裁判基準、自賠基準って何?
裁判基準よりも自賠基準の方が有利な場合があるの?

この記事は、このような疑問をお持ちの方のために書きました。

こんにちは!弁護士の山形です。
今回は、裁判基準よりも自賠基準の方が有利になる場合について解説しています。
保険会社との交渉中で、示談か裁判か迷っている方は、ぜひ参考にしてみてください。

静岡城南法律事務所

弁護士 山形祐生(やまがたゆうき)

静岡県弁護士会所属 登録番号:44537

静岡県交通事故相談所の顧問弁護士(静岡県知事の委嘱による)。
日本交通法学会に所属し、交通事故に関する最新の裁判例等の研究をしている。静岡県外からの相談・依頼も多く、単独で年間に100件以上の交通事故案件を手掛けている。保険会社との交渉を得意とする。案件としては、過失割合、慰謝料、後遺障害、死亡事故に関するものが多い。

目次

裁判基準と任意保険会社基準と自賠基準

交通事故によって発生した損害の算定基準として、①裁判基準、②任意保険会社基準、③自賠基準といった3つの言葉を聞いたことがあるかと思います。

裁判基準というのは、裁判所が損害額を算定する際に参考にする基準です。
弁護士は、交渉段階でも裁判基準に基づいて算定した損害を保険会社に請求します。
そのため、「弁護士基準」と呼ばれることもあります。

任意保険会社基準というのは、任意保険会社が各社内で独自に定める損害の算定基準です。
公表されているものではありませんが、裁判基準よりも低額であることが一般です。

自賠基準というのは、自賠責保険で保険金額を算定する際に用いられる算定基準です。

裁判基準よりも自賠基準の方が高くなるケース

通常は、裁判基準で算定した方が自賠基準で算定した場合よりも、損害額が大きくなるのですが、ケースによっては、自賠基準で算定した方が損害額が大きくなることもあるので、注意が必要です。

具体例について紹介します。

休業の実損害が少ないケース

自賠基準の休業損害の算定方法は、独特なものとなっています。

例えば、裁判では、自営業者の休業損害の日額は、確定申告書などに基づいて、実際の減収額を損害額とします。

ところが、自賠責保険では、「休業による損害があった」という事実さえ認められれば、原則として日額6100円(※2020年3月31日以前の事故の場合は5700円)の休業損害が認められます。
実収入の日額が6100円を上回ることが証明された場合には、実収入の日額に基づいて認定されます。

そのため、実際の減収額が日額6100円よりも少ないケースや減収額が日額6100円以上あったことを証明することが難しいケースでは、裁判基準よりも自賠基準の方が高い休業損害が認定されることがあります。

あなたの過失が大きいケース

次に、あなたの過失が大きいケースでも注意が必要です。
というのも、自賠基準では、被害者の過失割合に比例した損害賠償額の減額はされません。
つまり、下の表のとおり、被害者に70%以上の過失が認められる場合についてのみ、20%~50%の減額がされます。

被害者の過失割合 後遺障害・死亡 傷害
70%未満 減額なし 減額なし
70%以上80%未満 20%減額 20%減額
80%以上90%未満 30%減額 20%減額
90%以上100%未満 50%減額 20%減額

そのため、被害者に70%以上の過失が認められるケースでは、自賠基準によって算定された自賠責保険金の金額の方が裁判基準の金額よりも高くなることもあるので注意してください。

 

その他の注意点

労働能力喪失率に注意

あなたに後遺障害が残ってしまったケースでは、自賠責が認定した後遺障害等級に応じた労働能力喪失率が裁判でも認められるかは、注意が必要です。

後遺障害の種類や実際のあなたの仕事の内容によっては、自賠責が認定した労働能力喪失率とは異なる喪失率を裁判所が採用する場合もあるのです。
これは、自賠責は、それぞれの後遺障害等級に対応する労働能力喪失率を機械的に認定するのですが、裁判では、具体的な労働能力喪失率が問題となるからです。

もちろん、自賠責の認定よりも有利な労働能力喪失率が裁判で認められる場合もありますが、裁判を行う段階では、注意が必要です。

自賠基準の支払上限に注意

自賠基準から支払われる治療費や休業損害、慰謝料などについては、120万円という上限が決められています(後遺障害がある場合は別途慰謝料や逸失利益が支払われます。)。

そのため、例えば、先ほど説明した休業損害について自賠基準の方が高い額が認定されるような場合であっても、治療費等が多く掛かっていて、既に支払上限を超えているようなケースでは、結局、自賠責から支払われることはありません。

まとめ

いかがでしたか?
今回は、裁判基準よりも自賠基準の方が賠償金額が高くなるケースについて解説しました。
ちょっと難しい話かと思いますので、微妙なケースでは、弁護士に相談してから、示談するのか裁判をするのか判断することをオススメします。

静岡城南法律事務所

弁護士 山形祐生(やまがたゆうき)

静岡県弁護士会所属 登録番号:44537

静岡県交通事故相談所の顧問弁護士(静岡県知事の委嘱による)。
日本交通法学会に所属し、交通事故に関する最新の裁判例等の研究をしている。静岡県外からの相談・依頼も多く、単独で年間に100件以上の交通事故案件を手掛けている。保険会社との交渉を得意とする。案件としては、過失割合、慰謝料、後遺障害、死亡事故に関するものが多い。

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