駐車場内で停止中に車をぶつけられた。
保険会社が主張する過失割合に納得がいかない。
過失割合が10:0になる場合を知りたい。
この記事は、このようなことでお困りの方のために書きました。
本記事では、駐車場内で車同士の事故における基本的過失割合について、解説しています。
また、各類型ごとに、10:0になる場合など、基本的過失割合とおりにならない場合についても解説しています。
保険会社が主張する基本的な過失割合に納得がいかないという方は、是非、参考にしてみてください。
目次
保険会社が主張する基本的過失割合と判例タイムズ
駐車場内での事故の場合、過失割合についてよく問題となります。
保険会社から「今回の事故の場合、過去の裁判では○対○で決まっている」などと言われたことはないでしょうか。
保険会社がいう「過去の裁判では」というのは、通常、判例タイムズという本を参考にしていることが多いです。
判例タイムズというのは、過去の裁判例等を事故類型ごとに整理して、基本的な過失割合を定めたものです。
交渉や裁判では、判例タイムズに記載された基本的な過失割合をベースに話し合いが行われることが多いです。
しかし、これはあくまで基準、つまり目安にすぎません。
そのため、具体的ケースによって、異なる割合になることがありますし、もっと言えば、似てはいるけれど、そもそも事故類型自体が基準のものと違うということで、全く異なる割合になることもよくあります。
そこで、以下では、まずは、駐車場内での車同士の事故について、各事故類型ごとに基本的過失割合を解説したうえで、それと異なる割合になった裁判例の解説記事や解決事例を紹介していますので、参考にしてみてください。
駐車場内の事故パターンごとの基本的過失割合と例外
通路を進行する車VS駐車区画に入る車
基本的過失割合と修正要素
通路を進行する車Aと駐車区画に駐車しようとしている車Bとの衝突事故の場合、基本的過失割合は、Aが80%、Bが20%となります。
駐車場は、駐車のための施設であり、自動車が通路から駐車区画に駐車しようとすることは、駐車場として当然想定されるものであるため、通路の通行よりも優先され、このような過失割合となります。
修正要素として、例えば、Aが徐行していなかった場合にはA:B=90%:10%となります。
また、Bが急発進した場合にはA:B=70%:30%となります。
0%:100%など基本的過失割合と異なる割合になるケース
似たような事故でも、通路を進行していたAが衝突前に停止していた場合には、基本的過失割合とおりにならない場合もあります。
例えば、停止したタイミング(長いほどAに有利)や停止した位置(Bとの距離があればAに有利)によっては、Aの過失が0%となることもあります。
また、Aの過失が0%にならないにしても、Aの方が有利な過失割合となることがあります。
保険会社は、Aが停止していたとしても、判例タイムズの基本的過失割合に沿った割合を主張してきますので注意が必要です。
当事務所の解決事例で、依頼者様が通路で停止中に駐車区画に入ろうとしていた車が衝突した事故で、裁判で0%:100%になったケースがありますので、参考にしてみてください。
また、AとBとの車間距離が短い場合(Aが詰めすぎの場合)であっても、以下の当事務所の解決事例のように、Aの過失割合の方が小さくなることがありますので参考にしてみてください。
通路を進行する車VS駐車区画から出る車
基本的過失割合
通路を進行する車Aと駐車区画から出ようとする車Bとの衝突事故の場合、基本的過失割合は、Aが30%、Bが70%となります。
駐車区画から出ようとする車については、通行部分への進入する際の注意義務があり、進入しようとする通行部分の安全を確認して、通行部分を進行する車の進行を妨げるおそれがある場合は通行部分への進入を控える義務があります(道路交通法25条の2第1項に準ずる注意義務)。
そのため、通路を進行する車の方が優先され、有利な割合となっています。
修正要素として、例えば、Aが順路(通行方向)に違反して進行していた場合にはA:B=40%:60%となります。
また、Aの速度が通路を走行する他の車の通常の速度よりも明らかに速い速度の場合にはA:B=40%:60%となります。
0%:100%など基本的過失割合と異なる割合になるケース
例えば、通路を進行していた車Aが急ブレーキをしても停止できない距離に近づいた段階で駐車区画から車Bが出てきた場合は、Aの過失が0%と判断される可能性があります。
この類型の事故に関する裁判例として、以下のとおり、突然後退してきたBの100%過失を認定したものがあります。
名古屋高裁・平成26年8月28日判決(確定)
本件事故は、A車両がB車両の後方の通路を通過しかかっていたところ、B車両が本件駐車枠から突然後退して来たために発生したものと認められる。したがって、Aに過失はなく、Bは、本件駐車枠から北側通路へ後退により進入する際には、北側通路上の車両等の有無及びその動静を確認すべき注意義務があるのに、漫然と北側通路に後退して進入した過失が認められる。
また、駐車区画から出ようとするBが通路に進入するのに十分な車間距離を空けて、車Aが通路上で停止していたという場合もAの過失が0%と判断される可能性があります。このケースでは、十分な車間距離があったか否かが重要となります。
当事務所の解決事例で、通路で停止していた車の過失が0%で示談した例があります。
駐車区画に入る車VS駐車区画から出る車
基本的な考え方
駐車区画に入ろうとする車Aと駐車区画から出ようとしていた車Bとの衝突事故の場合、判例タイムズには類型として挙げられていませんが、A:B=30%:70%と判断されることが多いです。
保険会社も上記のような主張をすることが多いですが、中には、50%:50%を主張してくる保険会社もいます。
駐車区画から出ようとする車については、通行部分への進入する際の注意義務として、進入しようとする通行部分の安全を確認して、通行部分を進行する車の進行を妨げるおそれがある場合は通行部分への進入を控える義務があります(道路交通法25条の2第1項に準ずる注意義務)。
簡単に言えば、駐車区画から出ようとする車は、元々、駐車区画内で停止しているため、十分に安全を確認して、他の車とぶつからないことを確認するまで通行部分への退出を控えることによって、事故を回避できます。
そのため、駐車区画から出ようとする車の過失の方が大きくなることが多いです。
0%:100%など基本的な考え方と異なる過失割合になるケース
どちらか一方が相手方の車に気がついて衝突前に停止した場合には、基本的過失割合とおりにならない場合もあります。
例えば、停止したタイミング(停止時間が長いほど有利)や停止した位置(距離があればあるほど停止した側に有利)によっては、過失が0%となることもあります。
また、完全過失が0%にならないにしても、有利な過失割合となることはあり得ます。
保険会社は、停止していようがいまいが、30%:70%や50%:50%の過失割合を主張してくることがありますので注意が必要です。
以下の記事で紹介している裁判例(東京地裁・平成27年1月20日判決)では、「Y車は、XがY車の前進に気付いてX車を停止させたにもかかわらず、前進を続けて停止したX車に接触したのであるから、本件事故の発生についてXに過失があったとは認められない。」として、駐車区画に駐車中に途中で停止した側の過失について0%と判断していますので参考にしてみてください。
駐車区画に進入中に相手方が駐車区画からバックを開始したという事故について、当事務所の解決事例で交渉により0:100となったケースもありますので参考にしてみてください。
駐車区画から出ようとする車同士
基本的な考え方
駐車区画に入ろうとする車同士の事故について、判例タイムズに類型は挙げられていません。
具体的状況によって異なりますが、優劣を判断する決め手がないので、50%:50%が基本となります。
0%:100%など基本的な考え方と異なる過失割合になるケース
どちらか一方が相手方の車に気がついて衝突前に停止した場合には、基本的な考え方とおりにならない場合もあります。
例えば、停止したタイミング(停止時間が長いほど有利)や停止した位置(距離があればあるほど停止した側に有利)によっては、過失が0%となることもあります。
また、完全過失が0%にならないにしても、有利な過失割合となることはあり得ます。
例えば、以下の記事の中で紹介している裁判例(東京地裁・平成23年7月11日判決)では、裁判所は、被告車が後退を開始する前に、原告車(赤い車)が後退を始め、切り返しのため、約10秒、原告車を停止させていたところ、被告車が原告車に衝突したと認定し、原告側の過失を否定していますので、参考にしてみてください。
駐車区画に入ろうとする車同士
基本的な考え方
駐車区画に入ろうとする車同士の事故について、判例タイムズに類型は挙げられていません。
具体的状況によって異なりますが、優劣を判断する決め手がないので、50%:50%が基本となります。
ただし、A車が先行していた関係にあれば、先行車A:後続車Bの過失割合が40%:60%となり得ます。
例えば、熊本簡裁(平成25年5月14日判決)は、原告(後行車):被告(先行車)の過失割合について40%:60%と判断しています。
0%:100%など基本的な考え方と異なる過失割合になるケース
どちらか一方が相手方の車に気がついて衝突前に停止した場合には、基本的な考え方とおりにならない場合もあります。
例えば、停止したタイミング(停止時間が長いほど有利)や停止した位置(距離があればあるほど停止した側に有利)によっては、過失が0%となることもあります。
また、過失が0%にならないにしても、有利な過失割合となることはあり得ます。
佐世保簡裁・平成22年3月23日判決は、駐車場の空いている駐車区画に進入したA車が駐車した直後に、方向転換のため同じ駐車区画に向かって後退してきたB車が衝突したという事故について以下のとおりA:Bの過失割合について0%:100%と判断しました。
常時不特定多数の車両が出入りしているような本件駐車場においては,・・・駐車場に後に入った車両の運転者が先に入った車両の動静に注意し,先行車両の進行を妨げてはならないという義務が発生するものではなく,一般的には,先行車両と後行車両との間に,直ちに優劣関係が存在するものではないというべきである。
これについてBは,まさにB車両が後退しようとしていた駐車区画又は進路上に,後から割り込んでくる形でA車両が進入してきたので,Aには,B車両が後退することは予測可能な状況にあったから,AにもB車両の進行を妨げた過失があると主張している。・・・A車両がウ点で停車している間は,B車両は,後退のための動作を開始しておらず,・・・停車したままの状態であったと認められる。
そうすると,本件駐車場が常時不特定の車両が出入りする駐車場であること,本件事故当時における本件駐車場の駐車区画のほとんどが空いた状況であったことからすると,Aには,・・・B車両を確認した際,B車両がどの駐車区画に駐車するのか,すなわち,Aが駐車しようとしていた駐車区画にB車両も競合して後退しようとしていたことを予見することは不可能であったというべきである。さらに,Aは,「私が駐車区画に車を止め,ギアをパーキングの位置に入れ,右サイドミラーを見ると,こちらに向かってくる車が見えたので,クラクションを3回ならしました。」と述べているとおり,B車両との衝突を回避するための措置をとったことが認められる。
・・・以上によれば,Aには,B車両の進行を妨げた過失があるとは認められず,本件事故の責任はBにあると認めるのが相当である。
十字路での出会い頭
駐車場内の十字路でAとBの出会い頭の衝突事故の場合、基本的過失割合はA:B=50%:50%となります。
これは、直進、右折、左折関係ありません。また、いわゆる「左方優先」も関係ありません。
修正要素として、例えば、Aの通路が狭く・Bの通路が明らかに広い場合A:B=60%:40%となり得ます。
また、例えば、Aが一時停止に違反している場合A:B=70%:30%となり得ます。
T字路での出会い頭
駐車場内のT字路で右左折をするAと直進するBの出会い頭の衝突事故の場合、基本的過失割合はA:B=60%:40%となります。
T字路の場合、Aは交差する直線道路を通行する車に注意するだけで足りるので、十字路の場合よりも注意がしやすく、Bとしても突き当たり路から進入するAは徐行してくるであろうと期待するのが一般の運転慣行と考えられいてるため、Aの過失が多くなります。
修正要素については十字路の場合と同じです。
車と歩行者の事故(駐車区画内)
駐車場内の駐車区画(駐車スペース)で車と歩行者が衝突した場合、基本的過失割合は車:歩行者=90%:10%となります。
修正要素として、例えば、隣接する駐車区画で車の乗降をしていた歩行者が事故にあった場合は、車:歩行者=100%:0%になる可能性があります。
また、歩行者が児童・高齢者の場合には車:歩行者=95%:5%、歩行者が幼児・身体障害者の場合には車:歩行者=100%:0%になる可能性があります。
車と歩行者の事故(通路上)
駐車場内の通路で車と歩行者が衝突した場合、基本的過失割合は車:歩行者=90%:10%となります。
修正要素として、例えば、歩行者の急な飛び出しがあった場合は車:歩行者=80%:20%となる可能性があります。
また、歩行者が児童・高齢者の場合には車:歩行者=95%:5%、歩行者が幼児・身体障害者の場合には車:歩行者=100%:0%になる可能性があります。
歩行者用通路標示上での事故の場合は、車:歩行者=100%:0%になる可能性があります。
有利な証拠を集める方法
当事務所へのご相談で断トツで多いのが駐車場内での交通事故の過失割合に関するものです。
他の法律事務所では、ケガなどの被害が小さくなる傾向にある駐車場内の事故について積極的に扱っていないため、被害者の方が色々と調べているうちに当事務所のサイトにたどり着くようです。
ご相談時の状況としては、以下のようなことが多いです。
- ドラレコがあり事故状況に争いはないが、保険会社が基本的過失割合を主張してくる。
- ドラレコが無く、事故状況に争いがある。
ドラレコがある場合は、上の記事でも紹介したように基本的過失割合とおりにならない場合もあるので、それらの裁判例等を挙げて、交渉することによって、有利な割合になるように目指します。
問題はドラレコが残っていない場合です。ドラレコを設置していなかった、上書きしてしまった、事故の衝撃で衝突のときだけデータが残っていない、など事情は様々です。
ドラレコのデータが無い場合に今からでも出来る対策として、以下のようなことが挙げられます。
①事故現場や車の写真を撮影し、車の傷痕を解析して事故状況を証明する。
②店舗の防犯カメラがある場合は保全してもらう。
③ドラレコのSDカードを外して、復元を依頼する。
④ケガをして、実況見分を行っている場合には実況見分調書を取り寄せる。
①車の損傷部分について解析をすることで、ある程度、事故状況を証明できる場合があります。
解析については、専門の業者に依頼することをお勧めします。
弁護士費用特約に加入している場合、その費用は弁護士費用特約でカバーされることが多いです。
当事務所でも解析業者と提携しておりますので、多くの交渉や裁判で有利な事故状況の証明に成功しています。
解析方法について詳しくは以下の記事を参考にしてください。
②店舗に防犯カメラがある場合は、とにかく早く、店舗にお願いして、防犯カメラ映像のデータを保存してもらいます。
映像データを提供してくれることはほとんどありませんが、弁護士に依頼した後に、弁護士が店舗と交渉したり、弁護士会照会という法的な手続をすることで防犯カメラ映像のデータを提供してもらえることがあります。
③可能性は低いですが、ドラレコを上書き保存してしまったという場合には、復元を業者に依頼することも考えます。
弁護士費用特約に加入している場合には、その費用が出ることもありますので、ダメ元で依頼しても良いかと思います。
④実況見分を行っている場合には、実況見分調書を取り寄せることも検討します。
実況見分調書には双方が主張する事故態様が記載されていますので、事故状況を検討する材料になるからです。
弁護士に交渉を依頼した場合は、実況見分調書の取り寄せまで行うことが多いです。
駐車場事故の過失割合について交渉を有利に進める方法
過失割合について、保険会社との交渉を有利に進めるポイントを解説します。
保険会社は、事故状況ごとに、上記のような基本的過失割合を主張してくることが多いです。
しかし、保険会社が主張する基本的過失割合は、車同士の事故の場合、双方車両が動いていたことを前提とするものです。
ですから、もし、あなたの車が衝突前に停止していた場合には、必ずしも基本的過失割合とおりになるとは限らないことを主張することが大切です。
そして、その主張をするときには、その根拠として、あなたが主張する事故状況と同じような事故状況に関する裁判例を挙げることが重要です。
そういった材料があれば、保険会社の担当者も上司の決済や契約者の納得を得やすいからです。
また、交渉を有利に進めるためには、保険会社との交渉を弁護士に依頼することも効果的です。
それは単に弁護士が交渉に慣れているから、というだけではなく、「裁判をされるかもしれない」というプレッシャーを与えることができるからです。
被害者自身やその保険会社の担当者が交渉している状況では、通常は、いきなり裁判となることは想定されません。
しかし、弁護士が間に入ってくれば話は別です。相手方保険会社や加害者としては、弁護士が入ってきた以上、交渉はまとまらなかった場合には、裁判になる可能性のことを考えなければなりません。
相手方保険会社や加害者本人としては、裁判まではしたくないと考えることが多いです。
駐車場内の事故の場合、被害金額も小さく、わざわざ裁判をするのは費用対効果的にメリットがないからです。
そのため、相手方保険会社や加害者が裁判を避けるために、譲歩してくることも考えられるわけです。
新規のご相談・ご依頼の受付停止のお知らせ
誠に恐れ入りますが、現在、多くのご相談・ご依頼をいただいており、新規案件の対応が困難な状況となっております。
そのため、現在、新規案件のご相談・ご依頼を一時停止させていただいております。
新規相談の受付再開の際には、当事務所のホームページにてご案内いたします。
何卒ご理解賜りますようお願い申し上げます。