保険会社が役員報酬の全額を基礎収入と認めてくれない。
社長・役員の休業損害、逸失利益の考え方を知りたい。
この記事は、このような社長・会社役員の方のために書きました。
こんにちは!静岡の弁護士の山形です。
今回は、会社の社長や役員の方の休業損害や逸失利益について解説しています。
裁判では、役員報酬については、必ず全額が基礎収入と認められるわけではありません。
そこで、役員報酬について基礎収入として認められるためのポイント等についても解説していますので、ぜひ参考にしてみてください。
目次
役員報酬の全額が基礎収入と認められるとは限らない理由
会社の社長を含む役員の方が事故にあった場合、休業損害や逸失利益で保険会社と揉めることが多くあります。
これらの損害額を計算する前提となる基礎収入額の認定が問題となるからです。
基礎収入額の認定が問題となるのは、裁判例では、役員報酬の中には、①労務対価部分と②利益配当部分等があると考えられていて、基礎収入額となるのは、①労務対価部分に限られるからです。
①労務対価部分というのは、その役員が実際に働いたことに対する報酬となるもののことです。
②利益配当部分などというのは、イメージとしては、実際に働いていないけど、創業者や役員という地位にいることでもらえる利益のことです。若い親族取締役が実際は働いていないけど生活保障の意味合いがある役員報酬や法人税の負担を軽減するための加算部分なども②利益配当部分などに含まれます。
そのため、交渉や裁判では、役員報酬のうち、どの程度が労務対価部分として認められるかが重要となってきます。
裁判での考え方
裁判では、以下で取り上げる事情を総合的に考慮して、労務対価部分の程度を判断しています。
会社の規模
大企業の役員の場合には、役員報酬の全てが労務対価部分と評価される場合が多いです。
一方、会社が小規模で事故に遭った役員が会社のオーナーである場合やオーナーと親族であるような場合には、役員報酬の全てが労務対価部分とは評価されない可能性が出てきます。
ただし、従業員が長年勤務して役員になったようなケースでは、オーナー等と異なり、役員報酬は低額であることが多く、労務対価部分が多く認められる可能性があります。
会社の利益状況
基本的には、同業種・同程度の規模の会社の同程度の地位の役員の報酬と事故に遭った役員の報酬を比べることになるのですが、業績等によって役員報酬額に差が生じることは当然あります。
そのため、業績が良い場合には、当該役員の報酬が高くても、労務対価部分が広く認められる可能性があります。
また、事故後の当該役員の稼働状況との関係で会社の利益がどうなったか?という点も考慮されます。
つまり、当該役員の稼働状況と会社の利益が連動しているような場合には、労務対価部分が広く認められやすくなります。
役員の地位・職務内容
当該役員が名目的な取締役で実際には、働いていないというようなケースでは、役員報酬に労務対価部分は無い、ということになります。
名目的な取締役ではない場合には、実際の職務内容が問題となります。
当該役員の職務内容が他の従業員と変わらず、報酬の額も他の従業員の給料とあまり変わらないような場合には、労務対価部分が広く認められる可能性があります。
また、小規模会社で、当該役員が実質的には一人で会社の利益をあげているような場合にも、労務対価部分が広く認められる可能性があります。
役員報酬の額
業績が低迷しているのに報酬額が急に増加している場合には、利益配当部分(労務対価部分ではない部分)が広く認められる可能性があります。
また、当該役員の年齢、経歴等からして、役員報酬が高額であるか否か判断される際に、賃金センサス(年齢別などの平均賃金額の統計です。)の額が参考とされることもあります。
なお、賃金センサスの額を参考とする裁判例では、賃金センサスの額を少なくとも労務対価部分とみるべき部分の判断の参考としたうえで、賃金センサスの金額よりも高い額を労務対価部分と認定しているケースが多くあります。
他の役員・従業員の職務内容と報酬・給与の額
例えば、当該役員と他の役員や従業員の職務内容がほとんど同じなのに、当該役員の役員報酬が他の役員の報酬や従業員の給与よりも高額である場合には、その差額の相当の部分が労務対価性がないと判断されやすくなります。
事故後の役員報酬の減額等
事故後に稼働できなかったことを理由に役員報酬が減額されていれば、相当部分が労務対価部分と評価される可能性がありますが、同族会社等では、代表者の意向で実際の稼働状況に関係なく役員報酬が減額されることもあるので、ケースバイケースということになります。
逆に事故後の減額が無かったとしても、必ずしも労務対価部分がないということにはなりません。
なお、当該役員が十分稼働できなかったのに、会社は報酬を支払ったということで、会社が事故の加害者に対して、いわゆる反射損害として、損害賠償請求することも考えられます。
同種企業の平均的な役員報酬額
会社の税金については、役員報酬の額が、その役員の職務内容、同種規模法人の役員報酬等に照らして不相当に高額な場合には、不相当と認められる金額は損金に算入されないという考え方があります。
しかし、これは、公平な課税を実現するために職務対価を算定するものに過ぎません。
そのため、実際の裁判例では、同種同規模の会社の役員報酬の金額に関する資料が証拠として出されることは稀ですし、提出されたとしても、労務対価部分の認定について、それほど影響力は無いと考えられます。
重要な要素は?
以上を踏まえると、当該役員の職務内容に照らして報酬金額が相当といえるか否かという考え方がベースにあって、職務内容の判断をする際に、会社の規模などの要素も検討されているようです。
そのため、訴訟では、当該役員の職務内容が重要であること、代替性がないことなどを主張するために、職務内容を具体的に主張することが大切です。
そして、裁判官に職務内容を理解してもらうためには、職務内容について当該役員の陳述書を証拠として出すと良いでしょう。
役員が死亡した場合の逸失利益
役員が亡くなった場合については、利益配当部分も含めて役員報酬全体を基礎として逸失利益を算定すべきとした裁判例があります(東京地裁昭和61年5月27日判決)。
死亡の場合は、役員の地位を失い、利益配当部分も受け取れなくなるからです。
そのため、被害者の遺族としては、上記裁判例を根拠とするなどして、役員報酬全体を基礎とした逸失利益を請求することをオススメします。
まとめ
いかがでしたか?
今回は、会社役員の休業損害と逸失利益について解説しました。
役員報酬の多くを基礎収入額として認定されるように、今回説明した各要素を検討して主張するようにしましょう。