信号機のない交差点で横から突っ込まれた!
保険会社から「動いている車同士の事故では10対0にはならない」と言われた。
相手は一時停止を無視して私は避けられなかったのに、私にも過失があるのは納得できない!
この記事は、このような状況でお困りの方のために書きました。
今回は、信号機のない交差点で動いているの交通事故で一方の過失割合が0(過失無し)になった事例・裁判例について紹介しますので、ぜひ参考にしてみてください。
ちなみ、交差点ではなく、並走状態からの車線変更で被害者の過失割合が0になった裁判例については、以下の記事で紹介していますので、そちらを参考にしてみてください。
目次
基本的な過失割合
まずは、過失割合の基本的な考え方について、簡単に説明します。
交通事故の過失割合については、過去の裁判例等からある程度類型化され、「別冊判例タイムズ38」(東京地裁民事交通訴訟研究会編)という本で事故状況ごとに、整理されています。
判例タイムズの基準が絶対というわけではありませんが、交渉でも裁判でも判例タイムズの基準が重視されますので、判例タイムズの考え方を理解しておくことは有益です。
例えば、信号機がなく、どちらも同じような幅の交差点で、どちらも同程度の速度で事故が起きた場合、基本的な過失割合は、40:60とされています(【101】図)。
上記基本的な過失割合を前提に、具体的な状況に応じて、過失割合が修正されていきます。
例えば、もし、左方優先となる青い車が減速して、赤い車が減速しなかった場合は、20:80となります。
20:80を前提に、この交差点が「見とおしがきく交差点」であれば、青い車の過失割合がー10%となり、10:90に修正されます。
また、赤い車に「著しい過失」があるなどすれば、さらに青い車の過失割合がー10%となり0:100に修正されます。
「著しい過失」の一例として、青い車が先に交差点に進入していた、つまり「一方車両の明らかな先入」がありますので、以下の記事も参考にしてみてください。
信号機のない交差点での事故で過失割合が0:100になった事例・判例
それでは、実際の裁判例をみていきましょう。
信号機のない交差点での事故で過失割合が0:100になった事例を集めてみました。
優先道路を走行中の出合い頭の衝突事故
さいたま地裁・平成29年12月27日判決(自保ジャーナル・第2020号)
本件事故時に原告車両が走行していた道路が優先道路であったことは当事者間に争いがない。・・・被告春子は、本件事故の際、考え事をしていて、被告車両走行道路の一時停止線に気づかず、停止線で一時停止しないまま、時速約30㌔㍍で本件交差点に進入し、本件交差点の中央付近で、被告車両の前部を原告車両の右側面中央付近に衝突させたものであり、被告春子は同乗していた被告次郎が「一時停止」と叫んだことから一時停止線を越えてからブレーキを踏んだ旨述べるものの、被告車両走行道路の左方の見通しが悪く、一時停止線がかなり前方にあることや、両車両の破損の程度が比較的大きいこと等から見ると、ブレーキが効いて減速する前に衝突してしまったと認められること等に照らせば、被告春子のブレーキ操作の不適切、前方不注視の程度は著しく、被告春子には著しい過失があったと認めるべきである。
上記のほか、原告車両からの右方の見通しも不良であって、原告甲野が本件事故を回避することは困難であったと認められることを勘案すれば、過失相殺をしないことが公平にかなうものと認める。
こちらの裁判例は、優先道路を走行していた車両(原告)と一時停止を無視した車両(被告)の交差点での衝突事故です。
判例タイムズによると、被告車両の基本的な過失割合は90%になります(【105】図)。
そして、裁判所は、被告のブレーキ操作の不適切、前方不注視の程度が著しいことを理由に被告に「著しい過失」があったとし、100%の過失割合を認めています。
裁判では、加害者側の「著しい過失」があったか否か問題となることが多いのですが、上記判決が「ブレーキが効いて減速する前に衝突してしまったこと」という事情から「ブレーキ操作の不適切、前方不注視の程度は著しい」と認定している点は参考になります。
「ブレーキを掛けたのが衝突直前だった」という場合や「衝突して初めて相手車両に気がついた」というような場合、著しい前方不注視が認められやすくなります。
一時停止を無視した車との出合い頭の衝突事故
名古屋地裁・平成26年3月12日判決(自保ジャーナル・第1923号)
被告車は、入口で一時停止及び左右の安全確認をせずに本件交差点に進入している。被告らは、被告車が減速して本件交差点に進入したところ、高速で進入してきた原告車と衝突したと主張するが、当該主張は原告車及び被告車の損傷状況と必ずしも整合せず、その様な事実を認めるに足りる証拠はない。一方、原告は、入口手前で減速し本件交差点には徐行で進入したと主張し、これに添う供述をしており、当該供述の信用性を疑うべき事情は見あたらない。本件事故は、主に、被告春子の一時停止義務違反、前方左右不注視の過失によるものといえる。・・・いずれにしても、原告車が徐行していたのに対し、被告車は、見通しの悪い本件交差点に、一時停止も減速もせず、前方左右の安全を確認することもなく進入しているのであるから、被告春子の過失は著しく、本件が過失相殺を相当とする事案とは考え難い。
こちらの判例は、徐行して交差点に進入した車両(原告)と一時停止を無視して減速しなかった車両(被告)との衝突事故です。
判例タイムズでは、「一時停止の規制のない道路から交差点に進入してきたⒶ車が徐行していたのに対し、一時停止の規制がある道路から交差点に進入してきたⒷ車が減速していなかった場合には、Ⓐ車の基本の過失相殺率は0と考えるのが相当である。」とされています。
そのため、裁判所は、判例タイムズの上記記載のとおり、原告の過失割合を0としました。
一時停止道路から渋滞道路の間を進行してきた車両との衝突事故(信頼の原則が適用された事例)
名古屋地裁・平成23年8月19日判決(交民集44巻4号1086頁)
原告車は、最高速度が時速40㌔㍍に制限されているのに、これに違反し、時速50㌔㍍余りで走行していた。また、反対車線が渋滞していることを認識していたために、進路右側の見通しは非常に悪かったが、進行している南北道路に交差する道路が存在すること自体は認識していた上、左側を注意してみれば交差する道路の存在を認識し得る状態にあったのであり、しかも、交差道路があれば、そこから急に飛び出してくる車両等が出てくる可能性があることは認識していた。上記のような道路状況からすれば、原告としては、反対車線の渋滞により右方の交差道路及びそこから本件交差点に進入してくる車両等の発見が難しいのであるから、交差道路から本件交差点に進入してくる車両との衝突を避けるため、交差道路を見落とさないために十分に前方注視して進行すべきであった。また、少なくとも最高速度である時速40㌔㍍以内の速度で走行するべきであった。
しかし、上記認定のとおり、被告車は、別紙見取図②の位置からアクセルを踏んで急いで同③の位置まで進行して、本件事故を発生させたのであるから、被告車は、原告車が本件交差点の直近に迫った時点で、それを見落として突然原告車の前に現れたものということができる。そうであるとすれば、原告が、仮に、同②の位置に停車している被告車を認識したとしても、そのような状況で被告車が停止しているのであるから、当然、被告車は、原告車が通過するまで停止し続けてくれるものと考えて、そのまま進行して本件交差点を通過しようとするのが自然な状況であるといえる。そうすると、原告が左方を注視して交差点の発見をすることまではしなかった点は、本件事故の発生には何の影響も与えなかった(交差点を発見しても、原告は、被告車が停止し続けることを当然期待してそのまま進行したものと考えられる。)というべきである。したがって、本件事故の発生につき原告には、過失相殺をされるほどの過失まではなかったと認めるのが相当である。なお、原告車が時速50㌔㍍余りで走行していた点は明らかに道路交通法違反ではあるものの、被告車が突然北行き車線に進入したことからすれば、仮に、原告車が時速40㌔㍍で走行していたとしても本件事故の発生を回避することはできなかったと考えられるし、時速40㌔㍍であれば原告の受傷がどの程度軽くなったかも明らかではないから、過失相殺をするのは相当ではないというべきである。
こちらの裁判例の事故状況は、以下の図のとおりです。
原告車両(図の青い車)の対向車線(図の黒い車が走行している車線)は渋滞していました。
一方、被告車両(図の赤い車)は、一時停止道路から進路を開けてもらって渋滞する車の間を通って、横断しようとしました。
被告車は、本件交差点手前で一旦停止した後、交差点に進入し、渋滞中の車が進路を譲ってくれたことから急いで本件交差点を渡らなければならないと思ってアクセルを踏んで出たところ、左方から原告車が来たので慌ててブレーキを踏んだが間に合わず、原告車と衝突してしまいました。
裁判所は、原告の速度違反を認定したものの、原告が、「仮に、・・・停車している被告車を認識したとしても、そのような状況で被告車が停止しているのであるから、当然、被告車は、原告車が通過するまで停止し続けてくれるものと考えて、そのまま進行して本件交差点を通過しようとするのが自然な状況であるといえる。そうすると、原告が左方を注視して交差点の発見をすることまではしなかった点は、本件事故の発生には何の影響も与えなかった」として、原告の過失を0としました。
原告からすると渋滞の間から突然、被告車両が現れたため、(仮に原告が法定速度で走行していても)避けようがなかったと判断されたようです。
速度違反は、おおむね時速15kmオーバーとなると「著しい過失」と認定されますが、今回の原告は、時速10kmオーバー程度だったようで、「著しい過失」とは認定されませんでした。
そして、裁判所は、「被告車は、原告車が通過するまで停止し続けてくれるものと考えて、そのまま進行して本件交差点を通過しようとするのが自然な状況であるといえる。」として、原告の過失を否定した点については、いわゆる「信頼の原則」が適用された事例と考えて良いと思われます。
優先道路走行車と一時停止違反車との衝突事故(信頼の原則が適用された事例)
名古屋高裁・平成22年3月31日判決(自保ジャーナル・第1827号)
控訴人車は、優先道路を進行していたのであるから、本件交差点を進行するに当たり徐行義務(道路交通法36条3項、42条)は課されておらず、問題となるのは前方注視義務(同法36条4項)違反である。前方注視義務は、「当該交差点の状況に応じ、交差道路を通行する車両等(中略)に特に注意し、かつ、できる限り安全な速度と方法で進行しなければならない。」というものである。したがって、控訴人は、本件交差点を通過するに当たり、優先道路を進行中であることを前提としてよい。すなわち、交通整理の行われていない交差点(本件交差点もこれに当たる。)において、交差道路が優先道路であるときは、当該交差道路を通行する車両の進行妨害をしてはならないのであるから(同法36条2項)、控訴人は、被控訴人車が控訴人車の進行妨害をする方法で本件交差点に進入してこないことを前提として進行してよく、前方注視義務違反の有無もこのことを前提として判断するのが相当である。そうすると、優先道路を進行している控訴人は、急制動の措置を講ずることなく停止できる場所において、非優先道路から交差点に進入している車両を発見した等の特段の事情のない限り、非優先道路を進行している車両が一時停止をせずに優先道路と交差する交差点に進入してくることを予測して前方注視をし、交差点を進行すべき義務はないというべきである。本件においては、前示の事故態様に照らし、上記特段の事情は認められない。・・・よって、本件事故につき、控訴人に過失(前方注視義務違反)があったとは認められず、被控訴人の過失相殺の抗弁は理由がない。
いわゆる信頼の原則を適用して被害者(控訴人)の過失を否定した裁判例です。
実は、この判決の原審(名古屋地裁・平成21年12月16日判決)は、以下のように判示して、被害者について10%の過失を認定していました。
ところで、原告は一時停止の見落としは重大な過失、あるいは著しい過失にあたり、原告の過失割合は零である旨主張する。しかし、別冊判例タイムズの基本割合は、優先道路を横断する車に前方不注視等があることを前提としてのことであり、一時停止の標識を見落として一時停止しなかったからといって、さらに、重過失あるいは著しい過失ということはできない。本件交差点は、東南角の双方の見通しが悪く、原告は本件交差点の安全を確認して減速して進行すべきであり、また、10㍍手前で被告車を発見できたものであって、クラクションを鳴らすなどの操作により被害をより小さくできた可能性があり、1割の過失は否定できない。
被害者はこのような原審の判断に納得せず控訴したわけです。
そして、高裁は、被害者の主張を認め、優先道路を走行していた被害者について過失相殺を否定しました。
この点、判例タイムズでは「優先道路を通行している車両等は、見とおしがきかない交差点を通行する場合においても徐行義務は無いが(法42条1号かっこ書)、その場合でも法36条4項による注意義務は依然として要求されており、具体的事故の場面では優先車にも前方不注視、若干の速度違反等何らかの過失が肯定されることが多い。ここでは、上記のような通常の過失を前提として、基本の過失相殺率(※10:90)を設定している。」とされています。
つまり、判例タイムズの基本的な過失割合(10:90)は、優先車に前方不注視等の過失があることを前提としていますが、この判決は「優先道路を進行している控訴人は、急制動の措置を講ずることなく停止できる場所において、非優先道路から交差点に進入している車両を発見した等の特段の事情のない限り、非優先道路を進行している車両が一時停止をせずに優先道路と交差する交差点を進入してくることを予測して前方注視をし、交差点を進行すべき義務は無い」としたうえで、本件では「特段の事情」は認められず、優先車である控訴人の前方不注視は無いと判断したわけです。
いわゆる信頼の原則が適用されて被害者の過失が否定された事例の一つとして参考になります。
原付との衝突事故で自動車の過失が否定された事例
静岡地裁 昭和52年7月20日判決
被告車の運転者である亡次郎は、優先道路である県道を進行していたのであるから、交通整理の行われていない本件交差点の右側の見とおしが悪くとも、道路交通法第42条による徐行義務を負わない(最判昭和45年1月27日民集24巻1号56頁)ものと解すべく、しかも本件交差点の交通量が閑散であった(前掲二第一号証の一によりこれを認める)ことを考慮すれば、同人が時速約36キロメートルで本件交差点に進入しようとしたことは、そのこと自体同人に過失があったとすることはできない。又、同人が原告車を発見したときの双方の位置及び交差点右側の見とおし状況を合せ考えると、同人は、原告車を発見しうる最初の時点においてこれを発見したものと認められるので、前方不注視の過失もなく、衝突を回避すべく急制動をかけた措置も適切と認められ、結局、同人には本件事故の発生につき過失がなかったものとするのが相当である。
この裁判例は、優先道路に一時停止標識のある狭路が交わる信号のない交差点で、優先道路を時速36kmで進行する加害者(貨物車)に、一時停止を無視して右方の狭路から進入した被害車(原付自転車)が出会い頭に衝突した事故について、加害者に自賠法3条但し書の免責を認めた事例です。
古い判例ですが、自動車対原付の信号機の無い交差点での事故で、自動車の過失が否定されて100:0になったという珍しい事例なので、最後に紹介しました。
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いかがでしたか?
今回は、交差点事故の過失割合について解説しました。
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