健康保険の治療費は、既払い金としては、どのように扱われるの?
労災保険の障害年金は、どのように扱われるの?
この記事は、このような疑問をお持ちの方のために書きました。
こんにちは!静岡の弁護士の山形です。
今回は、少し、マニアックな話ですが「既払金」についての解説です。
どのようなものが既払金となるのか、過失相殺との関係ではどのように扱われるのか。
このような話は、トータルの賠償額にも影響がある重要な話ですので、参考にしてみてください。
目次
Q 過失相殺前控除って何?
過失相殺前控除というのは、トータルの損害額を算出してから既払金を控除して、その残額に対して過失相殺をする方法です。
一方、過失相殺相殺後控除というのは、トータルの損害額に対して過失相殺をした後に既払金を控除する方法です。
健康保険の療養給付については、社会保障的性質が強いことなどから、実務上、過失相殺前控除が定着しています。
そのため、被害者に過失がある場合であっても、療養給付部分は、被害者の負担となりません。
なお、健康保険の傷病手当金については、裁判例では、考え方が分かれています。
労災保険給付については、最高裁判決で過失相殺後に控除するとの考え方が示されました。
国民年金・厚生年金からの各種給付については、裁判例では、両方の考え方が示されており、確定していません。
そのため、被害者の立場としては、過失相殺前控除を主張していきましょう。
Q 労災保険からの障害年金給付は、既払金になるの?
労災保険から障害年金など、継続的に支給されるものについて、既払金として扱われるのは、既に支払われたものと、支払われることが確定した年金に限られます。
そのため、将来の年金は、既払金とする必要はありません。
Q どんなものが既払金として扱われるの?
最高裁は、「保険給付の対象となる損害と民事上の損害賠償の対象となる損害とが同性質であり、保険給付と損害賠償とが相互補完性を有する関係にある場合」に既払金として控除されるとの基準を示しています。
しかし、これでは、抽象的過ぎてよく分かりません。
この点については、「民事交通事故訴訟 損害賠償算定基準」(財団法人日弁連交通事故相談センター東京支部)という本(通称「赤い本」です。)で、過去の裁判例が整理されていますので、そちらを参考にすると良いでしょう。
一例を挙げますと、例えば、搭乗者傷害保険金、生命保険金、傷害保険金、労災保険上の特別支給金等については、控除されないとの裁判例がありますので、あなたも損害を請求するときは、上記保険金については、控除する必要はありません。
まとめ
いかがでしたか?
今回は、既払金について解説しました。
既払金をどのように考えるかによって、トータルの賠償額も変わってきますので、注意するようにしましょう。