駐車場内で前を走行していた車が駐車のためにバックしてきたので、停止したところにぶつけられた。
保険会社からは、2:8で、私の方が8割悪いと言われている。
私は停止していた被害者のなのに納得できない!逆に10:0にしたい!
この記事は、このような状況でお困りの方のために書きました。
駐車場内での事故のうち、駐車区画進入車と通路停止車の事故における過失割合について、当事務所でも扱った裁判例等を交えてを解説していますので、ぜひ参考にしてみてください。
目次
基本的な過失割合はどちらが有利?
駐車場内での事故でよく相談を受けるケースとして、「前の車が突然、バックしてきたので停止した。それでも前の車はバックしてきて衝突した。保険会社からは、私の過失が8割だと言われている。」というものがあります。
過失割合の検討にあたっては、「別冊判例タイムズ38 民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準〔全訂5版〕」(以下「判タ」といいます。)という書籍が広く用いられています。
判タには、事故類型事に基本的な過失割合や修正要素が記載されており、裁判や交渉でも参考にされることが多いです。
冒頭のようなケースでは、保険会社は、駐車区画進入車と通路進行車との事故に関する【336】図を持ち出して、駐車区画進入車:通路進行車について20:80の過失割合を主張してくることが多いです。
しかし、【336】図は、通路進行中の車との事故を想定したものであって、通路で停止した車との事故における過失割合を定めたものではありません。
この点、判タにおいても「通路進行車において、駐車区画進入車の駐車区画への進入動作を事前に認識することが客観的に困難であった場合(例えば、車両の距離が近接した地点で急に駐車区画への進入動作を開始した場合や、駐車区画から相当程度の距離を進行したところで後退による進入動作を急に開始したために、通路進行車には駐車区画進入車がどの駐車区画に進入しようとしているのかを認識することが困難であった場合など)は、本基準によらず、具体的な事実関係に即して個別的に過失相殺率を検討すべきである。」を解説されています。
したがって、駐車区画進入車と通路上の車との衝突事故だからといって、全てのケースで20:80になるわけではありません。
むしろ、私の経験から言えば、冒頭の「前の車が突然、バックしてきたので、停止した。それでも前の車はバックしてきて衝突した。」という事故の場合、通路で停止していた車の方が過失割合が小さくなることも十分あり得ます。
さらに言えば、次に紹介する裁判例のように、停止したタイミングにもよりますが、通路で停止した車の過失が0%になることもあり得ます。
そこで、以下では、バックで駐車動作中の車と通路停止車との事故に関する裁判例等について解説しながら具体的な過失割合について見ていきます。
裁判例等の解説
駐車動作中の車vs通路停止車の過失割合が100:0となった裁判例
福岡簡裁・令和6年1月23日判決
両車の動きをみると、衝突に至るまで、原告車は、被告車の様子を見守るような体勢で、通路上で10秒近く停止している。一方で、被告車は、後退する際、ことさら大回りしたり、高速で後退したりはしていないものの、本人尋問の結果によれば、被告は、原告車が近くにいることに気付いておらず、「衝突するまで原告車の方を一切見ていなかった。」と供述した。 このような事実に照らせば、本件事故の主な原因は、両車が通路上ですれ違う際に、被告が適切な車間距離を保つことを怠った点にあるものと解される。
そうすると、被告には、後方の安全確認をしないまま漫然と後退したことにより、適切な車間距離を保つことができずに原告車と衝突した過失がある。もっとも、被告車があと少しで入庫を終える位置まで到達した時点で衝突したことや両車の衝突個所からみて、原告車がわずかな距離を後退すれば衝突を防ぐことができたとも解される(現に、衝突後原告車がわずかに後退すると、被告車は、再度後退して入庫を始めている。)が、そもそも、原告車は、被告が周囲を注視して同車の存在に気付いていれば、ハンドル操作で衝突を容易に回避できる位置に停止していたものと認められ、被告車の安全な入庫が不可能なほど同車の進入経路を塞ぐ位置に停止していたとはいえない。したがって、以上の認定に照らせば、原告に何ら過失はなく、本件事故は、もっぱら被告の過失により生じたものと認められる。
当事務所が依頼を受けて担当した裁判です。
事故状況は、駐車場内で原告(当事務所の依頼者)の車が通路を進行していたところ、その前方を走行していた被告の車が駐車枠に駐車すべくバックしてきたので、原告の車は停止したのですが(㋓)、被告の車はそのままバックしてきたので(④)、原告車に衝突したというものです。
保険会社は、交渉段階から判タの【336】図に基づいて、原告の過失が大きいと主張していました。
しかし、裁判所は、「原告車は、被告車の様子を見守るような体勢で、通路上で10秒近く停止している。」「被告には、後方の安全確認をしないまま漫然と後退したことにより、適切な車間距離を保つことができずに原告車と衝突した過失がある。」として、原告の過失が0%の判決を下しました。
重要な要素としては、以下の点が挙げられます。
・原告車が10秒近く停止していた。
・被告は原告車が近づいていることに気が付いていなかった。
・原告はクラクションを鳴らしていないし、後退していない。
・原告車と被告車の車間距離
停止時間が10秒近いというのは本件の特殊性だと思います。
やはり、10秒近い停止時間となると、直前停止とは異なり、過失無しと判断されやすいのかもしれません。
被告は衝突して初めて原告車に気が付いていますから、周囲を全く見ていなかったといえ、大きな過失が認定されやすいといえます。
この点は、裁判の尋問手続の中で被告自らに供述させました。
原告は、停止中にクラクションを鳴らしたり、衝突を回避するために後退していません。いわゆる、結果回避措置を取ったとはいえないケースでした。被告もこの点を強く主張していました。
しかし、判決ではクラクションについては何ら触れられませんでした。この点は、他の裁判例では停止車の過失を認定する材料となっていますので、裁判所によって考え方が異なるのかもしれません。
また、原告車が後退しなかった点については、「被告車があと少しで入庫を終える位置まで到達した時点で衝突したことや両車の衝突個所からみて、原告車がわずかな距離を後退すれば衝突を防ぐことができたとも解される(現に、衝突後原告車がわずかに後退すると、被告車は、再度後退して入庫を始めている。)が、そもそも、原告車は、被告が周囲を注視して同車の存在に気付いていれば、ハンドル操作で衝突を容易に回避できる位置に停止していたものと認められ、被告車の安全な入庫が不可能なほど同車の進入経路を塞ぐ位置に停止していたとはいえない。」として、後退しなかったことについて過失はないとの判断を示しました。
したがって、裁判所は、停止時間、被告が原告車に気が付いていなかった点、車間距離を重視して、100:0の認定をしたものと考えられます。
駐車動作中の車vs通路停止車の過失割合が75:25で和解した事例
大津簡裁(和解)
本件事故は、一見、判夕【336】の事例に類似するが、原告車が、進路を進行した状態での接触ではなく、停止していた原告車に被告車が接触したという点で異なっている。上記の判夕の事例の基準(後退車:進行車=20:80)が妥当するのは、駐車区画進入車の駐車区画への進入動作が、進路通行車からみて、後退灯の点灯等により、当該駐車区画のある程度手前の位置で客観的に認識し得る状態に至っていたことが前提となっている(つまり、駐車区画進入車が駐車区画に後退進入しようとしていることが認識できる状態であるにもかかわらず、同車と衝突の可能性のある、駐車区画進入車走行予想エリア内に通路進行車を走行させたことが過失内容となる。)。しかし、本件では、先行する後退進入車(被告車)が停止し(ブレーキランプが点灯)、直後に、バックライトが点灯したこと(ギアをバックに入れたこと)が確認できるが、その時点では、後続する通路進行車(原告車)は、既に停止していた。・・・停止車両に衝突(接触)した以上、基本的には、動きながら衝突した側に過失が認められるべきである。
こちらも、当事務所が担当した事件での裁判所和解案からの引用です。
事故状況としては、駐車場内の通路を原告(当事務所の依頼者)が走行していたところ、前を走行していた車がバックをしながら駐車区画に進入しようとしました。そのため、原告が停止したところ、そのままバックしてきた被告の車が原告の車に接触したというものです。
被告は、上記類型の事故についても【336】図が妥当するのだと交渉段階でも裁判でも主張していました。
しかし、裁判所は、上記のとおり、停止していた車との事故の場合は状況が異なると述べて一蹴しました。
そして、裁判所は「被告としては、 ハンドル操作を的確に行い、予定していた駐車区画に進入すべきであり、それができない、あるいは、できる自信がなければ、原告車に後退してもらうよう合図をするか、別の駐車区画への駐車等を検討すべきであった。」とも指摘しています。
しかし、一方で原告についても、「駐車場内では、後退する場合のことを考えた車間距離を確保しておくべき」「クラクションを鳴らすなどして、注意喚起を行うべき」などと過失を指摘して、バックしてきた被告について75%の過失割合を提示し、双方和解に応じることとなりました。
この事件では、交渉段階の過失割合から逆転することはできましたが、それでも、原告の車と被告の車の車間距離がかなり詰まっていた点が停止車側の過失として考慮されてしまいました。
駐車動作中の車vs停止中の車の過失割合が70:30となった裁判例
東京高等裁判所・令和3年2月20日判決
・・・標準基準中の駐車場内の事故というのは、大規模駐車場であって公道の通行の安全に影響のないエリアにおける事故を前提とするものである。本件駐車エリアにおける西側区画の南端又は出入口から2番目の区画への進入という運転操作は、公道から本件駐車エリアに進入しようとする後続車がある場合には、公道の通行の安全に大きな影響を及ぼす運転操作であって、標準基準中の駐車場内の事故とは前提を異にする。このような本件事故現場の客観的な環境は、被上告人も当然分かっていた。上告人Y1が本件駐車エリアに進入していったん停止した後、再度少し前進させてより奥に進入した位置で停止したのも、上告人車の車体後部が公道に残ったままだと、公道における別の交通事故を誘発する現実的なリスクが存在し、当該リスクを回避するための交通安全上不可欠の動作であったからである。原審の前記4(2)の判断中、この動作を「南側出入口近くから漫然と前進した」と評価する部分は、是認することができない。また、本件駐車エリアの形状からすると、上告人Y1が結果的に被上告人車の走行経路上に上告人車を停止させてしまったこと、後退や移動をしなかったことを過失と捉えることにはいささか無理があり、仮にこれを過失とみるとしてもその程度は小さいものというべきである。本件駐車エリアの形状からして、公道からの進入開始前に、上告人Y1において、被上告人車が別の奥の駐車エリア(より店舗建物に近い。)に行くのか、本件駐車エリアに駐車するのか予測するのは困難である。また、本件駐車エリアは当時空いていたと推認される(被上告人車は通路から直接西側駐車区画に進入せず、公道から4~5区画目の東側駐車区画にいったん進入できるほどであった。)から、後続車が来たら事故の危険の高い場所となるべき西側区画の南端の区画を、殊更に駐車場所として選択しようとする車両の存在を予測することも、必ずしも容易ではないからである。
・・・前記認定事実によれば、双方の運転者に過失がある(上告人Y1も、注意喚起措置をとらなかった点には過失があるといわざるをえない。)が、本件事故の最大の原因が後退動作中の被上告人の進行方向不注視(一瞬ドアミラーを見ただけで、それ以外は全く注視していなかったこと)にあることは明らかである。そうすると、双方の過失割合は、第1審判決が判示するとおり、上告人Y1 3、被上告人7とするのが相当である。
本件の概要はつぎのとおりです。
事故現場となった駐車エリアは、南北方向に走る通路とその東西両側に駐車区画があり、通路の南端は公道に通じる出入り口でした。
公道から駐車エリアへ加害車である先行車が進入し、西側区画のうち、出入り口付近の区画に後退させて駐車しようとしました。
これに対して、被害車である後続車も公道から駐車エリアに進入しましたが、先行車の動きを予測して、被害車の後部が公道にはみ出すような位置で停止しました。
その後、後続車は、公道に後部がはみ出して危険だと思い、少し前進させ再び停止しました。
そうしたところ、先行車が後退したことで、被害車と衝突したという事案です(被害車はクラクションを鳴らすなどの注意を促す行動をしませんでした。)。
今回の事故は、判タ【336】をベースに考えると、駐車区画進入車:通路進行(停止)車が20:80が基本的過失割合となることが想定されます。
実際、原審(上告前の裁判所)は、2:8を基本的過失割合として、通路に停止していた車の過失を80%と認定しました。
しかし、【336】の事故は、収容台数の多い駐車場内で生じ、公道の通行の安全に影響のないエリアにおけるものを想定していると考えられます。
本件についてみると、先行車は公道から駐車エリアに進入し、公道に通じる出入り口付近の区画に駐車しようとし、後続車も公道から駐車エリアに進入しましたが、後部が公道にはみ出るような位置で停車してしまったことからすると、本件の事故は行動の通行の安全に影響のないエリアにおける事故ではなさそうです(後続車の後部が公道にはみ出たままでは公道上で事故が起きてしまう可能性がありますね。)。
そのため、上告審である東京高等裁判所は、「標準基準中の駐車場内の事故というのは、大規模駐車場であって公道の通行の安全に影響のないエリアにおける事故を前提とするものである。本件駐車エリアにおける西側区画の南端又は出入口から2番目の区画への進入という運転操作は、公道から本件駐車エリアに進入しようとする後続車がある場合には、公道の通行の安全に大きな影響を及ぼす運転操作であって、標準基準中の駐車場内の事故とは前提を異にする。」として、原審の考え方を否定しました。
そして、「本件駐車エリアの形状からすると、上告人Y1が結果的に被上告人車の走行経路上に上告人車を停止させてしまったこと、後退や移動をしなかったことを過失と捉えることにはいささか無理があり、仮にこれを過失とみるとしてもその程度は小さいものというべきである。」としつつも、停止車がクラクションを鳴らすなどの注意喚起措置をとらなかった点も考慮して、駐車区画進入車:通路進行(停止)車が70:30と原審とは逆転した過失割合を認定しました。
通路で停止した車の過失を小さくするには
上記裁判例や当事務所で扱った他の裁判例を検討すると、裁判所は、以下のような事情を考慮しているといえます。
①停止していた時間・停止したタイミング
②停止した位置(車間距離・バックしてくる車の経路)
③クラクションを鳴らすなどの注意喚起措置の有無
①については、停止時間が長ければ長いほど停止していた車に有利になります。衝突直前の停止では、停止として考慮されない可能性が高くなります。
②については、駐車場内では、前の車がバックしてくることを想定した車間距離を確保する必要があります。一方でかなり前を走行していた車が不自然に長い距離をバックしながら駐車しようとしてきた場合は、停止車の過失が小さくなる可能性もあります。距離が長ければ長いほど停止時間も長くなると考えます。
③について、こちらについては、最初に紹介した判例でも解説しましたが、考慮されないケースもあります。そのため、重要度としては、①、②の方が高くなるものと考えます。
したがって、裁判で、過失割合100:0を目指すのであれば、上記事情を主張・立証していくことが重要となります。
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