本件は、信号機のある交差点で青信号に変わった直後、先頭で直進していた依頼者様のバイクの目の前を、対向の右折車が合図なく右折してきて衝突した事故です。

相手方保険会社は当初、交差点での右直事故の基本割合(別冊判例タイムズ39号【Ⅳ-16】では直進バイク15%・右折車85%)を盾に依頼者様にも15%の落ち度があると譲りませんでした。
また、途中で「停止線の手前から右折合図を出していた」「直進バイクの前方不注視を一因と認定した裁判例がある」と主張も加えてきました。

当事務所では、車載カメラの映像と音声をコマ送りで精査し、相手方の主張を一つずつ崩した結果、最終的に被害者0%・加害者100%の合意に至りました。

青信号に変わった直後、目の前で右折された

依頼者様は、夜間、信号機のある交差点の直進車線の先頭で信号待ちをしていました。青信号に変わったため発進し、交差点に進入したところ、対向車線から右折してきた相手車両と衝突しました。バイクは横転、依頼者様は受傷し、車両も大きく損傷しました。

翌日から相手方保険会社との交渉が始まりましたが、保険会社の担当者は早い段階で「右直事故の基本割合は直進バイク15・右折車85。これは判例タイムズの基準であり動かせない」と告げてきました。依頼者様としては、青信号に変わった瞬間に先頭で発進しただけで、目の前を突然右折された側です。15%の負担を受け入れる気持ちにはなれず、当事務所にご相談に来られました。

依頼者様はバイクにドライブレコーダーを取り付けており、事故の瞬間の前後数十秒が映像と音声で残っていました。これが本件の最大の手がかりになりました。

相手方の当初主張:「基本15:85は動かない」

相手方保険会社が当初並べてきた主張は、おおむね次のような点でした。

  • 信号機のある交差点での右直事故の基本割合は、直進バイク15%・右折車85%である。

  • 双方とも青信号で発進してから一定の時間が経過しており、直進バイクが先頭であっても、目の前の右折車を発見して回避する余地はあったはずだ。

  • そもそも相手車両は右折レーンで信号待ちをしていた。直進側からは「対向車が右折してくる」ことは予見できた。よって直近で右折を始めたわけではない。

  • 右折に入る前から右折合図(ウインカー)を出していた。

  • 直進バイク側の前方不注視を一因と認めた裁判例がある。

相手の「合図を出していた」主張をドラレコはどう覆したか

右折合図(ウインカー)を出していたかどうかは、右直事故の過失割合を考えるうえで非常に大きな意味を持ちます。合図を出していなければ、直進側は右折を予見しにくく、判例タイムズの基準でも右折車側に不利な修正要素(右折車の合図なし)として整理されているからです。

そこで私は、依頼者様のドライブレコーダーの映像と音声を、衝突の数十秒前から1コマずつ確認しました。事故は夜間に起きていたため、相手車両のウインカーが点滅していれば、周囲の建物や依頼者様などに黄色い点滅光が映り込むはずです。映像を拡大し、明るさを調整して何度も見直しましたが、衝突直前まで相手車両に点滅光は一切確認できませんでした。

さらに音声トラックも確認しました。ドライブレコーダーには周囲の音も録音されていましたが、相手方が右折を始めるまでの数秒間に、ウインカーの作動音はありませんでした。映像にも音声にも合図の痕跡がない——この一点を、書面で時刻表記とコマ位置を特定して指摘しました。

相手方保険会社は当初「合図は出していた」と主張していましたが、この映像と音声の精査結果を突きつけたところ、合図の主張を取り下げました。合図ありを前提に組み立てられていた譲歩拒否の根拠が一つ崩れたわけです。

「直近右折ではない」という保険会社の主張

もう一つの争点が、相手車両の右折が「直近右折」に当たるかでした。直近右折は、直進車のすぐ目の前で右折を始めることで、これが認められると右折車側に大きく不利な修正がかかります。

相手方保険会社は「右折レーンで信号待ちしていたのだから、直進側は右折車の存在を当然認識していた。したがって直近右折ではない」と主張しました。

しかし、右折レーンで待っていたかどうかと、いつ右折を始めたかは別の問題です。判例タイムズの基本割合は、対向の右折車が右折レーンで待機していること自体は前提として織り込んでいます(右折車線がある交差点での右直事故の類型として整理されているため)。問題は、右折を「いつ」開始したかです。

ドライブレコーダーをコマ送りで確認すると、依頼者様のバイクが横断歩道を越えて交差点内に進入したまさにそのタイミングで、相手車両は横断歩道の上を走行しながら右折を開始していました。つまり、直進バイクが交差点に入った瞬間、右折車はもう動き始めていた——これでは直進側に回避の時間がほぼ残されていません。

この経過を、ドライブレコーダーの該当コマと時刻表記を添えて整理し、①相手車両が右折レーンで待っていたこと自体は基本割合に織り込み済みの事情にすぎず、右折レーンで待っていたという事情は、基本割合の15:85にすでに織り込まれている前提なので、そこから「直進側も右折車を予見できたはず」と上乗せして直進側に不利に評価するのは、同じ事情を重複してカウントすることになる。②本件で問題にすべきなのは、青信号に変わった直後、先頭で進入してきた直進バイクの目の前で右折を始めた点であり、ここに「直近右折」と「右折車側の著しい前方不注視」が認められる。と主張しました。

そして、この主張が通り、直近右折が認められました。

援用裁判例の射程をどこで切ったか

相手方は途中から、過去に直進バイク側の前方不注視を一因と認定した裁判例を持ち出し、「本件にも同じ評価が当てはまる」と主張してきました。

裁判例は、その事件の事実関係を前提に判断されたものです。前提が違えば、結論の射程は本件には及びません。当事務所では、相手方が援用してきた裁判例の事案を精査しました。すると、その事件では右折車が事前に右折合図を出していたことが事実認定の前提に組み込まれており、合図ありを前提に直進側の前方不注視が議論された判決でした。合図ありを前提に直進側の前方不注視が議論されている判決だったわけです。

これに対し本件では、ドライブレコーダーの映像と音声から右折合図がなかったことが客観的に示されています。前提が異なる以上、援用裁判例の射程は本件には及ばない——この一点を書面で明示して反論しました。「合図がない右折に対して、直進側に前方不注視を求めるのは過剰な要求である」と整理した結果、相手方はこの裁判例の援用を撤回しました。

また、当初は「合図を出していた」と主張しながら、その後に「合図を出していたことを前提とする裁判例」を援用するのは、相手方の主張同士が前提として整合しません。この点も書面で指摘し、援用の根拠が本件には及ばないことをさらに明確にしました。

15%の壁を0に動かした決め手は何か

本件で過失割合が15%から0%まで動いた決め手は、ドライブレコーダーという客観証拠を、漫然と「証拠として出した」のではなく、時刻と画面の位置を特定して相手の主張の前提条件を一つずつ崩した点にあります。

整理すると、相手方の譲歩拒否は「基本割合15:85+合図あり+対向車線で待機=予見可能=直近右折ではない+裁判例の援用」という積み木で組まれていました。当事務所はこの積み木を、下から順に外していきました。

  1. 映像と音声の精査で「合図あり」を崩した。

  2. 右折レーン待機は基本割合に織り込み済みの事情にすぎないと整理し、ここから予見可能性を二重に引き出すことを封じた。

  3. コマ送りで直近での右折開始を示し、直近右折と著しい前方不注視の評価を引き出した。

  4. 援用裁判例は合図ありが前提と射程外を明示し、相手方の主張同士の矛盾も指摘した。

こうして相手方の主張の前提が一つずつ崩れた結果、基本15:85の出発点そのものを動かす材料が揃いました。最終的に被害者0%・加害者100%で合意し、物損約30万円は全額相手方負担、人身についても治療終了時期まで治療費を対応してもらうことで決着しました。

同じ事故でも、こういう条件だと過失が残りやすい

本件で過失ゼロまで動かせたのは、ドライブレコーダーが映像と音声の両方を、夜間でも識別可能な品質で記録していたからです。ここは正直に申し上げておきます。仮にドラレコがなければ、合図の有無は当事者双方の言い分の水掛け論になり、右直事故の基本割合(直進バイク15%・右折車85%)に近い数字が残った可能性が高い事案でした。

とはいえ、ご自身のドラレコがない場合でも、打てる手は残っています。

  • 相手車両側にドラレコがあれば、開示を求めましょう。

  • 交差点周辺の防犯カメラ、店舗の防犯カメラ、走行中の他車のドラレコは、早期に動けば残っていることがあります。防犯カメラやドライブレコーダーのデータは、機種や設定によって数日から数週間で上書きされて消えてしまうものが多く、事故から日が経つほど取得できる可能性が下がります。事故直後〜数日以内に動くのが理想です。

  • 警察が作成する実況見分調書(人身事故の場合)も、事故状況に関する証拠として有用な場合があります。

「自分のケースは条件が揃っていないかもしれない」と感じている方ほど、ご相談はお早めにお勧めします。証拠の保全には時間が効きます。事故から日が経つほど、選べる手段は減っていきます。

過失が0%となったことによる影響

過失15%と過失0%の差は、目に見える金額だけの問題ではありません。仮に15%が残っていれば、依頼者様はご自身の損害(治療費・通院交通費・休業損害・慰謝料・車両修理費)の合計のうち15%を自己負担する立場でした。それが0になったということは、その15%分の負担を相手方に移したということです。物損約30万円という数字だけを見ると小さく見えるかもしれませんが、たとえば治療費・通院交通費・休業損害・慰謝料を合わせて人身の損害が100万円・200万円と積み上がっていったとき、その15%(15万円・30万円…)を自己負担せずに済むかどうかが過失0と15の差です。人身賠償まで含めた負担の総和を、依頼者様の側から相手方の側へ全部動かしたことに本件の意味があります。

もう一つ大きいのは、依頼者様が「青信号の先頭で発進しただけで、なぜ自分にも落ち度があると言われるのか」という納得できなさから解放されたことです。最初に保険会社から「基本15:85です」と言われて受け入れていたら、この納得感までは取り戻せませんでした。

もし今、保険会社から「基本割合がこうだから動かない」と言われて困っている方がいらっしゃいましたら、ご自身のドライブレコーダーや、現場周辺の映像、その他の客観的な記録の有無を一度確認してみてください。そのうえで、お早めにご相談いただけますと、保全できる証拠の選択肢が広がります。映像はあるが活かし方が分からない、相手が裁判例を持ち出してきたが反論の仕方が分からない——そういった段階でも、お話を伺うことができます。

まとめ

本件は、信号機のある交差点での右直事故において、右折車側の合図不存在と直近右折を、ドライブレコーダーの映像と音声を秒単位・コマ単位で精査して立証した事案です。基本割合の出発点である直進バイク15%・右折車85%を、相手方の主張の前提を一つずつ崩すことで0:100まで動かしました。

決め手になったのは、客観証拠を「出す」のではなく「時刻と位置を特定して相手の主張の前提条件にぶつける」使い方、そして相手方が援用してきた裁判例について事案前提の違いを示して射程を切った点です。一方で、ドライブレコーダーの映像と音声がなければ難しい事案であったことも事実です。同じような状況で交渉に行き詰まりを感じている方は、現場周辺の客観証拠の有無を含め、お早めにご相談いただくことをお勧めします。

この事件を担当した弁護士

静岡城南法律事務所

山形祐生(やまがたゆうき)

静岡県 登録番号:44537

静岡県交通事故相談所の顧問弁護士(静岡県からの委嘱による)。
弁護士としては珍しく、特に過失割合の問題に強い。保険会社が提示する過失割合に納得のいかない被害者からの依頼が多い。静岡県外からの相談・依頼も多く、一人で年間200件以上の交通事故相談等に対応してきた。

過失割合を得意とする事務所です

当事務所は交通事故の中でも特に過失割合の交渉や裁判を得意とします。
過失割合が争点となる案件に力を入れている法律事務所は全国的にも珍しいかと思います。

静岡県にある事務所ですが、お陰様で口コミが広がり、過失割合ついて、静岡県外の方からも多くのご相談・ご依頼をいただいております。

他の弁護士からは保険会社が提示する過失割合で諦めるように言われたというケースでも当事務所に交渉や裁判を御依頼いただいて有利な割合になったケースが多数あります。

当事務所では、専門解析業者(株式会社東海DC )と提携しているため、車の傷痕やドライブレコーダーの映像を解析し事故状況を検証して、過失割合について徹底的に争うことも可能です。
※解析業者への依頼は有料となりますが、弁護士費用特約がある場合には、基本的には弁護士費用特約によって費用が補償されます。

安心してご依頼いただける体制を整えておりますので、過失割合でお悩みの方はぜひ当事務所にご相談ください。

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よくある質問

Q静岡県以外の地域に住んでいるのですが、静岡県以外の地域からの相談・依頼は可能ですか?
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静岡県以外の方からのご相談・ご依頼もお受けしております。当事務所へのご相談・ご依頼のうち半分程度が静岡県外の方からのものです。

電話、メール、LINE、zoomなど、ご希望の方法でご相談いただけます。また、ご依頼後も同様の方法で打ち合わせができますので、仮に、裁判になったとしても、事務所にお越しいただく必要はありません。

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Qケガはなく、物損(車の修理費用など)の過失割合だけが問題になっているのですが、相談・依頼することはできますか?
A

弁護士費用特約に加入されていれば、物損だけの事故についてもご相談・ご依頼いただくことは可能です。

※弁護士費用特約に加入されていない場合、お怪我のない方のご相談・ご依頼をお断りさせていただいておりますのでご了承ください。

Q小さな事故で、特に保険会社との間で揉めていないのですが、弁護士に相談しても良いですか?
A

もちろん、問題ありません。
 弁護士に依頼することで、小さなケガであっても示談金額が増額される可能性がありますし、保険会社との対応を全てお任せできるというメリットがありますのでお気軽にご相談ください。

Q弁護士費用で費用倒れ(赤字)になることはありませんか?
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ご相談内容を詳しく伺ったうえで、もし、少しでも費用倒れの可能性がある場合には、必ずご依頼前にご説明させていただきます。万が一、増額した金額よりも弁護士費用が高額となる場合は、増額した金額が弁護士費用の上限となりますので、損をすることはありません。
 なお、弁護士費用特約をご利用の場合は、費用倒れになることはありません。

Qどの段階から費用が発生しますか?
A

相談では一切費用は発生しません。弁護士との間で委任契約書を作成して、正式にご依頼いただいて、弁護士が交渉等の活動を開始した段階から費用が発生致します。

Q日中は仕事で忙しいので、弁護士事務所に行ったり、電話をしたりすることが難しいのですが・・・
A

ご依頼後の弁護士との連絡手段をメールやLINEにすることが可能です。

Q裁判まではしたくないのですが、交渉で示談することは可能ですか?
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裁判まで行うか、交渉で示談をして終わらせるかは、依頼者の方が決めることになりますので、交渉での解説を希望される場合には、裁判にはなりません。なお、当事務所では、8割ほどが交渉で解決しています。

Q解決までには、どれくらいの時間が掛かりますか?
A

事案にもよりますが、交渉の場合、交渉開始から1ヶ月程度で示談して終わるケースが多いです。ただし、後遺障害の申請をしたり、過失割合に争いがあって実況見分調書等を取り寄せる場合には、プラス2、3月程度かかります。
また、裁判の場合は、早くても半年程度は掛かります。当事務所が過去に扱った裁判では、平均すると1年~2年で終わるケースが多いです。

Q弁護士に相談したら必ず依頼しなければいけないのでしょうか?
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もちろん、相談だけで依頼しなくても問題ありません。むしろ、複数の弁護士に会って相談したうえで、最も信頼できる弁護士に依頼することをお勧めします。

Q他の弁護士に依頼しているのですが、変更して依頼はできますか?
A

現在、依頼している弁護士との契約を解除していただいたうえで、ご依頼いただくことになります。また、弁護士費用特約を利用している場合には、ご自身の保険会社に担当弁護士を変更したい旨を伝えて了承を得てください。

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